労働・労災- 法律コラム・最新判例 -
(最新判例:労働)トラックの待機時間も労働時間(横浜地裁相模原支部)
作業の途中で次の作業のために待機している時間(「待機時間」「手待ち時間」などと呼ばれています)でも、必要が生じれば直ちに対応することが義務付けられている時間は、実労働時間であって、休憩時間ではありません。
従って、その時間分の賃金も当然支払われなければなりません。
そんな判決が4月24日、横浜地裁相模原支部で下りました。
原告は、東京北区の運送会社で働くトラック運転手の男性4人。
4人は、配送先でも荷下ろしの指示があるまで車内で荷物管理をしていました。
しかし、会社側は、荷物の積み下ろしがあっても車内で休めるとして、休憩時間を実態より多くして賃金や手当を計算していました。
判決は、「出荷場は、運ばれてくる荷物から担当の荷物を見つけなければならず、積んだ後も冷凍機管理などでトラックを離れられない」と指摘し、荷積みや荷下ろしの待ち時間は「実作業時間に当たる」とし、賃金未払い分総額4289万円余りと労基法違反に対する同額の付加金の支払いを命じました。
「待機時間」については、このようなトラックの荷下ろしの順番待ちのような場合以外にも、店で客を待っている「客待ち時間」なども該当します。
(弁護士村松いづみ)
2014-04-28掲載
(法律コラム:労災)免責期間内の過労自殺と生命保険金
生命保険の約款には、加入から一定期間内の自殺について死亡保険金を払わないと定めてあるのが通例です。
その期間(=免責期間)は、かつては1年や2年でしたが、最近は「3年」となっているようです。
そのため、長時間労働などの過労が原因で自殺したような場合、保険会社から、死亡保険金を払わないと言われることがあります。
しかし、生命保険の約款の「自殺」は、本人の自由な意思による自殺を意味します。
過労により「うつ病」などの精神障害などにかかり自殺したような場合には、判断能力を失っている=自由な意思を失っている、と思われるケースが多く、免責期間内であっても、原則として死亡保険金は支払われるべきです。
保険会社から支払いを拒絶されても、過労自殺が労災であると認められたような場合など、実際に死亡保険金が支払われるケースもあります。
自殺だからと言ってあきらめず、弁護士にご相談ください。
(弁護士村松いづみ)
2014-04-09掲載
(最新法令:労働)育児休業給付金が増額されます(雇用保険法改正)
4月1日から改正雇用保険法が施行されました。
改正の内容の1つとして、育児休業給付金の増額があります。
育児休業給付金とは、原則として子どもが1歳になるまでの育児休業期間中に雇用保険から支給されるものです。
これまでの支給額は、休業前の給与の50%でした。
今回の改正で、この金額が育児休業開始から6ヶ月(180日間)に限り、67%に引き上げられることになりました。
なお、この改正は、2014年4月1日以降に育児休業を開始する人が対象ですので、例えば3月に開始した人には、残念ながら適用されません。
(弁護士村松いづみ)
2014-04-04掲載
(最新判例:労働)過労うつ事件、病歴申告なくても会社に責任を認める(最高裁)
職場(東芝)で過労によって、うつ病を発症した労働者が解雇された事案で、最高裁は、3月24日、「労働者からの申告がなくても(会社は)労働環境に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている」として、損害賠償を2割減額した東京高裁判決を破棄差し戻ししました。
過労でうつ病になった労働者の訴えに対し、会社は、労働者が神経科の医院への通院歴などを上司に申告しておらず、しかも、もともと身体が弱かったとして、労働者側に過失があったと主張し、原審の東京高裁は、その主張を認め、過失相殺により、損害額を減額しました。
しかし、最高裁は、通院や病名などは、労働者にとって、プライバシー情報で、人事考課等に影響するから、職場で知られないようにすると想定されたものだと指摘。
「使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康に関わる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務を負っている」と判示しました。
また、身体の弱さについても、うつ病発症以前は、長年特段の支障なく勤務を継続しており、「労働者の個性の多様さとして通常想定される範囲を外れない」として減額を認めませんでした。
なお、解雇については、労災による休業期間とその後30日間は解雇できませんので、東京地裁・高裁いずれも解雇無効の判決が出ています。
「うつ病」の発症について、本人から病歴などの申告がなくても、会社が過重な業務により体調不良を生じていたことを知りうる状況にあった場合には、業務を軽減するなどの措置をとるよう判示するこの最高裁判決は、労働者の力になるものと思います。
(弁護士村松いづみ)
2014-03-31掲載
(法律コラム:労働)マタハラに負けない(その2)産休・育休手当
産休や育児休業を取った場合、その期間中の賃金については、法律は何も定めていません。
休暇中の賃金も支給される職場は、数少ないと思われます。
そこで、労働者が産休や育児休業を取る際は、健康保険や雇用保険から手当金や給付金が支給されます。
産休中は、健康保険から「出産手当金」「出産育児一時金」が出ます。
出産手当金は、1日につき、標準報酬日額の3分の2相当額が支給されます。
出産育児一時金は、子ども1人原則42万円となっています。
育児休業中には、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。
これは、男性が育休を取った場合にも同じです。
給付金の額は、1日につき、「休業開始時賃金日額×40%」です。
休業前6ヶ月の平均賃金をもとに計算されるため、妊娠で残業が減ったり、有給休暇を使い果たして欠勤したりした場合は、給付金が少なくなります。
また、保育所が定員いっぱいで、育休を延長した場合、育児休業給付金の延長には、原則として子どもが1歳になるまでに保育所に提出した「入所申込書」と、自治体の「不承諾通知」が必要ですので、注意してください。
(弁護士村松いづみ)
2014-03-07掲載
(法律コラム:労働)マタハラに負けない(その1)産前産後休暇
妊娠や出産、育児休暇などに関し、職場で嫌がらせをされるマタニティ・ハラスメントが大きな問題となっています。
中には、明らかな労基法違反や均等法違反の事例もあります。
他方、女性労働者の方も、自分の権利について十分な知識がなく、泣き寝入りしてしまうケースも見受けられます。
そこで、「マタハラ」に負けず、働くことと子育てとを両立させていくための法律知識をご紹介していきたいと思います。
まず、産前産後休暇です。
マタハラ相談の中には、「使用者から『うちには産休はありません』と言われた」というものもありました。
しかし、産休は、労働基準法65条で定められており、使用者はこれを拒否することはできません。
まして「うちには産休はない」などというのは明らかな労基法違反です。
そのような職場は、労働基準監督署に申告しましょう。
産前休暇は、6週間(双子以上の多胎妊娠の場合は14週間)取ることができます。
産前休暇を取るには、労働者本人から請求をする必要があります。
産後休暇は、8週間です。
8週間のうち6週間は強制的な休暇ですが、あとの2週間は、本人が働きたいと申し出て、働いても産婦に支障がないと医師が認めた仕事について就労することができます。
ところで、予定された出産日が遅れることがよくあります。
出産日が遅れたからと言って、産後休暇日数を減らすことは許されません。
(弁護士村松いづみ)
2014-03-07掲載
(最新判例:労働)添乗員の「みなし労働時間制」の適用を否定(最高裁)
労働時間が算定困難な場合に、一定時間働いたとみなす「みなし労働時間制」の適用をめぐり、阪急トラベルサポートと同社の添乗員が争った事件で、1月24日、最高裁は、みなし労働時間制は適用できないと判断しました。
阪急トラベルサポートでは、同種の事件が他にも裁判所に係属しており、下級審の判断も分かれていたことから注目されていました。
労働基準法38条の2本文では、「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす」と規定されています。
この本文が適用されると、どんなに働いても残業代は請求できないことになります。
そこで、海外ツアーの添乗員の勤務実態が「労働時間を算定しがたい」と言えるかどうかが争点となりました。
最高裁は、労働時間の算定が困難と言えるかどうかは、
①業務の内容
②会社と労働者がどのような方法で指示や報告をしているか
などを考慮して判断すべきとしました。
そして、今回のケースでは、添乗員は、旅行日程に沿ったスケジュール管理を具体的に指示され、ツアー中は常時携帯電話の電源を入れて、日程変更が必要ならば会社の指示を仰ぐよう求められていた、また終了後は日報を提出して業務状況を詳しく報告させていた、
などと認定し、「添乗員の勤務状況を把握することが困難だったとはいえず、みなし労働時間制は適用できない」と判断しました。
この最高裁の考え方によると、IT技術が進歩した今日、労働者に携帯電話やパソコンを持たせれば、大半の場合、使用者は労働時間の管理はできるのではないでしょうか。
(弁護士村松いづみ)
2014-01-27掲載
(最新判例:労働)業務内容が同じパートに正社員と同額賞与を認定(大分地裁)
正社員と同じ仕事をしているのに、パートというだけで賃金が低いのはおかしい・・・・そんなパートさんたちの不満をこれまで何度となく聞いてきました。
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(=パート労働法)では、正社員と仕事内容や責任の程度が同じ場合には、パートを正社員と差別的に取り扱ってはならないという規定があり(8条)、また賃金については、正社員との「均衡」を考慮して決定するよう努力せよとの規定(9条)がありますが、現実の労働現場では、これらの規定が有効に働いているとはとうてい思われません。
2013年12月10日、大分地裁は、正社員と同じ業務内容にもかかわらず、パート労働者であるためにボーナスや休日の割増賃金が低いのは「合理的理由がない」と判断しました(2013年12月11日付け京都新聞)。
原告は貨物自動車の運転手で、1日あたりの労働時間は正社員より1時間短い7時間だったが、業務内容は正社員と同じだったようです。
判決の詳細はわかりませんが、労働基準法3条の同一労働同一賃金の原則を適用したものと思われます。
古くは、長野地裁上田支部平成8年3月15日判決で、同じラインで働くパートに対し正社員の8割の賃金を認めた判例はありますが(丸子警報器事件)、同額を認定した判例は初めてだと思われます。
画期的な判決です。
(弁護士村松いづみ)
2013-12-13掲載
(最新判例:労災)公務災害の遺族補償年金 受給資格の男女差 違憲(大阪地裁)
また男女差別事案で憲法14条に反し違憲という判決が下りました。
2013年11月25日、大阪地裁は、地方公務員災害補償法における遺族補償年金の受給資格の男女差は「不合理な差別的取扱いで、違憲、無効」と判断しました。
1967年施行の地方公務員災害補償法では、夫が公務災害で死亡した場合、妻には年齢に関係なく、平均給与額の最大245日分の遺族補償年金を毎年支給すると規定しています。
これに対し、妻が死亡した場合の夫の年金受給資格は「60歳以上」と限定。現在は特例で、夫も「55歳以上」であれば年金受給が認められていますが、「55歳未満」の場合は一時金として平均給与額の1千日分などしか支給されません。
この規定は、「夫が働き、妻が家庭を守る」という家族モデルが支配的だった1967(昭和42)年に制定されました。
そのため、共働き世帯が一般的となり、女性の正規雇用率が45.5%にものぼる今日の時代の要請には全く合致していないものでした。
その意味では、当然の判決と言えるでしょう。
国は、控訴せず、速やかに改正に着手すべきです。
同様の制限は、民間労働者が対象の労災保険や遺族厚生年金にもあり、それらの改正も同時に求められます。
(弁護士村松いづみ)
2013-11-26掲載
(法律コラム:労働)税理士・弁護士などにも失業給付 国が扱いを変更
弁護士と言っても、独立して事務所を経営(個人とか共同で)している人もいれば、他の弁護士に雇われて働く弁護士もいます。そのような弁護士を「イソ弁」と呼んだりします。また、最近では、企業に直接雇用される弁護士も増えています。
これまでは、弁護士・税理士・公認会計士・社会保険労務士・弁理士など、いわゆる「士業」の資格を持つ人が、労働者として勤務していた事業所を退職しても、雇用保険の基本手当(失業給付)の支給対象にはなりませんでした。
この取扱いが、2013年2月1日の受給資格の決定から変わりました。
きっかけは、税理士事務所を退職したのに「自営業」とみなされ失業給付を受給できなかった大阪府内の男性税理士が2012年12月25日国に提訴したことによります。
厚生労働省は、「士業の被雇用者が増えている背景を踏まえて」として、1月25日付けの職業安定局長通達で取扱いを変更しました。
受給できる要件は以下のとおりです。
①雇用保険の被保険者期間が、原則、離職日以前2年間に12か月以上あること
②就職したいという積極的な意思と、いつでも就職できる能力(健康状態・家庭環境など)があり、積極的に求職活動を行っているにもかかわらず、就職できない状態(失業の状態)にあること
弁護士の世界で言えば、弁護士を取り巻く経済環境や労働環境は厳しく、資格があれば生活できる時代ではなくなってきています。
失業した場合の救済策として歓迎です。
(弁護士村松いづみ)
2013-03-15掲載