相続・遺言- 法律コラム -
(法律コラム:相続・遺言)法務局が遺言書を保管(7月10日から)
2020年7月10日から、新しい遺言書保管制度が始まります。
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)という法律にもとづくものです。
それは、自分で書いた遺言(自筆証書遺言。民法968条)を各都道府県にある法務局で保管してもらえる制度です。
これまでは、自筆証書遺言を保管する公的なシステムがなかったので、自宅などで保管しなければならず、亡くなっても相続人が遺言書の存在に気がつかなかったり、紛失や関係者による隠蔽・変造などの恐れもありました。
このような相続をめぐる紛争を防止するという観点から、制度が新設されました。
これまでは、遺言者の死後、自筆証書遺言を発見した人は家裁に遺言書を提出して「検認」という手続をする必要がありました(民法1004条1項)。
でも、この制度を利用した遺言書であれば、検認の手続は不要となります。
そして、相続人は、遺言者が亡くなった後、遺言書を閲覧でき、遺言書情報証明書の交付を受けることができます。
次に、具体的な手続です。
①自筆証書遺言を作成すること。
法務局は、内容の書き方や遺言としての要件が整っているかまでは教えてくれるわけではないので、それらについては、弁護士にご相談ください。
②申請書を作成すること
申請書は、法務省のホームページからダウンロードできます。もちろん、法務局の窓口にも備えられています。
③法務局に申請の予約をすること
④申請は、予約で決まった日に、遺言者本人が自ら法務局に赴いて行わなければなりません。
なお、手数料は、遺言書1通あたり3900円です。
また、遺言者は、遺言書の閲覧や返還を請求することもできます。
2020-07-02掲載
(法律コラム:相続・遺言)法定相続情報証明制度を利用しましょう
親などが亡くなって相続が開始する場合、例えば、金融機関にある被相続人(亡くなられた方)の口座を解約するためには、たくさんの戸籍謄本や除籍謄本を提出する必要があります。
なぜならば、誰が法定相続人かを確定するためには、被相続人が出生して死亡するまでの戸籍謄本や除籍謄本が必要だからです。
これまで、被相続人名義の財産がいくつもの金融機関にある場合、その数だけ謄本を入手して1度に手続きするか、あるいは各金融機関毎に順番に謄本を使用していくかの方法で行ってきました。
2017年5月29日から、全国の登記所(法務局)において、各種の相続手続きに利用することができる「法定相続情報証明制度」がスタートしました。
この制度を利用して、登記所が交付してくれる法定相続情報一覧図の写しを入手すれば、金融機関がいくつあっても、その一覧図の写しを提出すれば解約手続きができ、とても便利になりました。
また、家裁に遺産分割調停を申し立てる場合にも、この一覧図を提出することができます。
次に、この制度の申出方法を説明します。
申出は無料で、一覧図の写しは、何度でも無料で交付されます。
1、手続き①
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や除籍謄本など必要書類を集めます。
※必要書類は、法務局にお問い合わせください。
2、手続き②
被相続人の戸籍謄本などの記載から判明する法定相続人を一覧にした図(A4サイズの白い紙に記載)を作成します。
3、手続き③
申出書に必要事項を記入し、前記①の書類と前記②で作成した一覧図と合わせて登記所に申出をします。
申出をする登記所は、以下のいずれかを選択してください。
・被相続人の本籍地
・被相続人の最後の住所地
・申出人の住所地
・被相続人名義の不動産の所在地
4、申出後は、登記官が提出書類の不足や誤りがないことを確認し、一覧図の写しを交付します。
一覧図は、登記所において5年間保管されます。
この制度の詳細は、法務局ホームページをご覧下さい。
2019-07-30掲載
(最新法令:相続)改正相続法(その6)~義理の親を介護した「嫁」等にも特別寄与料が~
現行の民法でも、被相続人の療養看護などをした相続人には相続分を多めに認められる「寄与分」という制度があります(民法904条の2)。
ただ、この「寄与分」は、法定相続人にしか認められませんでしたので、例えば、長男の「嫁」が義理の両親を介護しても、いざ親の遺産分割となると、金銭的な請求をすることはできませんでした。
そこで、そのような不公平を是正するために、今回の改正で、法定相続人ではない親族に対しても「特別寄与料」を他の相続人に請求できるようになりました(改正民法1050条)。
「親族」とは、6親等内の血族、配偶者、3親等内の姻族を言います(民法725条)。
特別寄与料は、法定相続人に対し請求することになります。
当事者間で協議が整わない時には、家庭裁判所に申し立て、決めてもらうことになります。
但し、特別寄与者が相続の開始を知った時及び相続人を知った時から6ヶ月を経過した時、または、相続開始から1年を経過した時は、請求できなくなりますので、注意してください。
この「特別寄与」が認められるのは、あまり簡単ではありません。
単に、同居していたとか、入院中に頻繁に病院に行っていたというだけでは、家裁は認めてくれないこともあります。
どのような介護にどのくらい時間を使ったかなどを記した「介護日誌」のような記録をつけておくと良いかと思います。
この改正法は、2019年7月1日から施行となります。
2019-01-17掲載
(最新法令:相続)改正民法(相続関係)の施行日が決まりました
2018年7月に成立した改正民法(相続関係)の内容については、5回にわたり「最新法令:相続」でご紹介しました。
その際には、まだ、改正法の施行日が決まっていませんでしたが、施行日が決まりましたのでお知らせします。
まず、原則的な施行日は、2019年7月1日です。
ただ、下記の2つの項目については、施行日が異なります。
●自筆証書遺言の方式を緩和する方策 2019年1月13日(既にに施行されています)
●配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等 2020年4月1日
また、法務局の遺言保管制度は、遺言書保管法という法律によって規定されており、この施行日は、2020年7月10日です。
(弁護士村松いづみ)
2019-01-15掲載
(最新判例:相続・遺言)相続分の譲渡も「贈与」にあたる(最高裁)
例えば、父親が死亡した後、高齢の母親が自分の相続分を複数いる子どものうちの1人に譲渡する、というようなことが少なからずあります。
そして、その母親が死亡した場合、母親が行った亡父の相続分の譲渡は「贈与」に当たるかということで争われた事案につき、最高裁は、2018年10月19日、民法903条1項の「贈与」(特別受益)にあたると判断しました。
民法903条1項は、共同相続人の中に、亡くなった被相続人から、例えば、生前に金や不動産などの「贈与」を受けた者がいるような場合には、その価額を加えたものを相続財産とみなすと規定しています。
本件では、母親が生前、亡き父親の遺産分割に際し、自分の相続分を子どものうちの1人に譲渡し、母親が死亡した時には遺産はほとんどなかったという事案でした。
原審の東京高裁は、「相続分の譲渡による・・・持分の移転は・・・暫定的なものであり、最終的に遺産分割が確定すれば、その遡及効によって、相続分の譲受人は相続開始時に遡って被相続人から直接財産を取得したことになるから、・・・贈与があったとは観念できない」としました。
しかし、最高裁は、譲渡した相続分に含まれるプラス財産とマイナス財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとは言えない場合を除き、経済的利益を合意によって移転するものということができ、「贈与」にあたると判断しました。
(弁護士村松いづみ)
2018-10-23掲載
(最新法令:相続)改正相続法(その5)~遺言の保管制度の新設~
今回、遺言書の保管について、新たに「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)という法律ができました。
これにより、高齢化の進展等の社会経済状況の変化に鑑み、相続をめぐる紛争を防止するという観点から、法務局において、自筆証書遺言を保管する制度が新設されました。
自筆で書いた遺言については、遺言書が死亡後何年も経過した後に発見されて遺産分割協議がやり直しになったり、遺言書を見つけた人が破棄したり隠蔽したりしてしまって遺言が執行されないという危険もありました。
そこで、法務局が自筆証書遺言を保管する制度を設けます。
申請の対象となるのは、自筆証書遺言(民法968条)です(遺言書保管法1条)。
保管の申請は、遺言者本人が自ら出頭して行わなければなりません(同法4条6項・5条)。
遺言者は、遺言書の返還や閲覧を請求することができますし(同法6・8条)、相続人や受遺者などは、遺言者の死後、法務局に閲覧を申請できます(同法9条)。
また、法務局に保管されている遺言書については、家庭裁判所の検認(民法1004条1項)も必要ないとされていますので、相続人の負担もなくなり、速やかな遺言の執行が期待できます(遺言書保管法11条)。
この制度の施行日は、未定です。
公布の日(2018年7月13日)から2年以内に施行されることとされており、施行前には、法務局において遺言書の保管を申請することはできませんので、ご注意ください。
(弁護士村松いづみ)
2018-09-14掲載
(最新法令:相続)改正相続法(その4)~自筆証書遺言の方式の緩和~
遺言を書く方法として、多くは、自筆証書遺言と公正証書遺言が利用されています。
自筆証書遺言は、費用もかからず手軽に作成することができますが、遺言の全文、日付、氏名を自筆で書かなければならず、しかも、書き間違えた時の訂正の方式も民法で定められています(民法968条)。
簡単な内容の遺言であれば良いのですが、多くの財産を複数の人に分配する内容だと、結構、書くことが負担になることもあります。
そこで、今回の改正では、自筆証書遺言の方式が一部、緩和されます。
自筆証書遺言に「財産目録」を付ける場合には、その目録は、代筆やパソコンなどで作成することや通帳を写しなどを添付することなどが可能となりました。
但し、その目録などのページ毎に署名押印する必要があります。
この改正については、施行日が既に決まっており、2019(平成31)年1月13日から施行されます。
(弁護士村松いづみ)
2018-09-13掲載
(最新法令:相続)改正相続法(その3)~金融機関の「仮払い制度」創設~
現在、被相続人の預貯金口座は、金融機関がその死亡の事実を知ると、「凍結」されてしまい、払い戻すには、相続人全員の同意が必要です。
そのため、葬儀費用や負債の支払い、生活費など、当面すぐに必要な金が下ろせなくて困ったというケースが非常に多いと思います。
そこで、今回の改正では、遺産分割前であっても、相続人が預貯金の払い戻し請求ができる2つの方法が創設されました。
1、家庭裁判所への保全処分を利用して払い戻す方法
家裁に遺産分割の審判又は調停の申立を行い、これに合わせて仮払いの申立をする方法です。
負債の返済や生活費など、裁判所が必要と認めた場合には、遺産に属する預貯金の全部又は一部を仮に取得することができます。
ただ、裁判所への申立が必要なため、費用や時間がかかります。
2、家庭裁判所の判断を経ないで払い戻す方法
遺産に属する預貯金のうち、各口座ごとに、以下の計算式で求められる金額(但し、上限額があります)については、他の相続人の同意がなくても、単独で払い戻しをすることができます。
(計算式)
相続開始時の預貯金債権の額×1/3×当該払い戻しを受ける共同相続人の法定相続分
この方法だと、裁判所の手続きが不要で、直接、金融機関の窓口で手続きができますので、簡便ですね。
3、施行日は未定です。改正法公布の日(2018年7月13日)から1年以内に施行されます。
(弁護士村松いづみ)
2018-09-12掲載
(最新法令:相続)改正相続法(その2)~配偶者保護のための持戻し免除~
相続における「持戻し」というのは、聞き慣れない言葉かもしれませんが、現行民法にはその規定があります。
「持戻し」とは、被相続人から遺贈や生前贈与によって特別に利益を受けた相続人があった場合には、相続財産にその特別受益の金額を加えた上で、それぞれの相続分の算定を行うとするものです(民法903条)。
ただし、被相続人が、この「持戻し」をしなくてもよい旨の意思表示をしていた場合には、この持戻しは免除されます(民法903条3項)。
今回の改正では、婚姻期間が20年以上である夫婦間における居住建物やその敷地の遺贈や生前贈与については、民法903条3項の持戻し免除の意思表示があったものと推定し、遺産分割においては、原則として、その居住用不動産の価額を特別受益として扱わず計算することができることになりました。
つまり、20年以上結婚していた配偶者に居住用不動産を贈与していた場合には、その不動産を遺産分割の対象の含める必要はないので、配偶者はそれ以外の預貯金などの財産についても多く相続できるようになります。
配偶者を保護するための方策です。
施行日は未定で、公布の日(2018年7月13日)から1年以内に施行されることとされています。
2018-09-11掲載
(最新法令:相続)改正相続法(その1)~配偶者の居住権~
相続法の分野を大幅に見直す民法改正(民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律)案が、2018年7月6日、国会で可決成立し、同月13日公布されました。
今回の改正は、1980(昭和55)年に、配偶者の法定相続分を3分の1から2分の1に引き上げて以来の、約40年ぶりの抜本的改正です。
どのような改正内容なのか、これから、法律コラムの中で、そのポイントを解説していきたいと思います。
まず、「配偶者の居住権」です。
相続開始時点で、被相続人と同居していた建物に配偶者が引き続き居住できるという権利が創設されました。
「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」の2種類があります。
1、配偶者短期居住権
遺産分割が終了するまでの期間について居住を保護する目的の権利です。
相続開始(=被相続人の死亡)とともに当然に発生し、次のいずれか遅い日までの間、配偶者はそのまま無償で居住建物に住むことができます。
①遺産分割により居住建物の取得者が確定した日
②相続開始から6ヶ月を経過する日
上記以外で、遺贈などにより配偶者以外の第三者が居住建物の所有権を取得した場合や、配偶者が相続放棄をした場合などには、居住建物の所有権を取得した者は、いつでも配偶者に対し配偶者短期居住権の消滅の申し入れをすることができ、配偶者は、その申し入れを受けた日から6ヶ月を経過する日までの間、無償でその建物を使用することができます。
2、配偶者居住権
これは、長期の居住権で、居住建物を終身または一定期間、無償で使用・収益できる権利です。
次のいずれかの場合に、取得することができます。
①遺産分割において、配偶者が配偶者居住権を取得したとき
②配偶者に、配偶者居住権が遺贈されたとき
③被相続人と配偶者との間に、配偶者に、配偶者居住権を取得させる死因贈与契約があるとき
この場合、配偶者は居住建物の所有者に対し、配偶者居住権の登記を請求することができます。
3、施行日はまだ決まっていませんが、配偶者居住権については、公布の日から2年以内に施行とされていますので、2020年7月13日までに施行されることになります。
(弁護士村松いづみ)
2018-09-10掲載