相続・遺言- 法律コラム・最新判例 -
(最新判例:相続・遺言)公正証書遺言の無効(口授について)(大阪高裁)
公証人が作った母親の遺言書が有効かどうか、兄弟が争った訴訟の控訴審判決で、遺言の趣旨が母から公証人に伝わっていなかったとして、大阪高裁は、2014年8月28日、無効との判決を下しました(2014年8月27日付け京都新聞朝刊)。
公証人は、裁判官や検察官など法律実務の経験が長い人の中から、法務大臣が任命します。
公証人が遺言者から面前で聞き取った内容を文章にまとめたものが「公正証書遺言」と呼ばれるものです。
公正証書遺言の作成を希望する人は、公証人の前で、自分が作成した遺言の内容を口頭で伝えなければなりません(民法969条)。
これを「口授」(くじゅ)と言います。
公正証書遺言では、遺言者の遺言能力(認知症の程度)が争われるケースはありますが、「口授」が争われたケースは、これまで少ししかありませんでした。
本判決は、まだ新聞報道でしか、その内容がわかりませんが、大阪高裁は、母親は最終的な署名のために赴いた公証人役場で「公証人が遺言内容を読み上げるのをうなずいて聞いていた」だけと認定し、母親から公証人への直接の内容伝達がないとして、遺言を無効としたようです。
なお、「口授」が原則ですが、口がきけない、あるいは耳がきこえない人の場合には、通訳者によって公正証書遺言を作成することは可能です(民法969条の2)。
(弁護士村松いづみ)
2014-09-30掲載
(法律コラム:相続)生命保険は相続の対象ですか?そして「特別受益の持ち戻し」との関係は?
遺産の中に、生命保険が存在する場合があり、共同相続人のうちの誰か一人が多額の死亡保険金を受領するというようなことがあります。
生命保険は、通常、死亡受取人が契約で指定されていることがほとんどですし、仮に指定されていない場合でも、約款で受取人の順番が定められていたりするので、これらは、相続財産ではありません。
受取人の固有の権利となります。
ですから、仮に、相続放棄をしても、生命保険だけは受け取ることができます。
なお、生命保険は、相続税との関係ではみなし相続財産として課税対象とされています。
しかし、それは、あくまで相続税法上ですから、民法の相続とは異なります。
ところで、民法903条は、共同相続人の中で、遺贈を受けたり、生前に多額の費用を出してもらったりした場合には、その贈与の額を相続財産に加えると定めています。
これを「特別受益の持ち戻し」と言います。
そこで、亡くなった人は生前保険料(生命保険の掛け金)を支払っており、その結果、死亡保険金が発生したわけですから、生命保険金が民法903条の「特別受益」にあたるのではないかという議論があります。
これについては、最高裁が「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生じる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき『特段の事情』が存する場合には、同条の類推適用により、当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持ち戻しの対象となると解するのが相当である」と述べています(平成16年10月29日決定)。
「特段の事情」については、最高裁は、「保険金の額、この額の遺産の総額に対する比率のほか、同居の有無、被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの・・・諸事情を総合考慮して判断すべきである」としています。
(弁護士村松いづみ)
2014-04-10掲載
(法律コラム:相続)共同相続人の1人は単独で被相続人名義の預金口座の取引履歴の開示を求めることができます
被相続人名義の預金口座の取引履歴を金融機関に請求したところ、「共同相続人全員の同意が必要です」と言われたことはありませんか?
このような取り扱いについて、最高裁は平成21年1月22日付けで、次のとおりの判決を下しています。
「金融機関は、預金契約に基づき、預金者の求めに応じて預金口座の取引履歴を開示すべき義務を負う」
「そして、預金者が死亡した場合、その共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使できるというべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない」
ですから、相続人であれば、単独で、被相続人名義の預金の動きを調べることができるのです。
でも、現実には、未だに「相続人全員の同意がいる」と言って拒否する金融機関もありますので、そのような時は、是非、弁護士にご相談ください。
(弁護士村松いづみ)
2014-03-27掲載
(法律コラム:相続・遺言)「財産をまかせる」という遺言の効力
遺言書ではマレですが、「遺産については、すべて妻にまかせます」などと書かれたものに出会うことがあります。
このような遺言の場合、法定相続人が妻以外にもいるケースですと「まかせる」という文言の解釈が問題となります。
判例の中には、「まかせる」という言葉は、本来「事の処置などを他のものにゆだねて、自由にさせる。相手の思うままにさせる。」ことを意味するにすぎず、与える(自分の所有物を他人に渡して、その人の物とする)という意味は全く含んでいない、と判断したものもあります(東京高裁平成9年8月6日決定)。
上記の判例のように、判例の多くは、「まかせる」は、「あげる」という遺贈の趣旨ではないと判断しているようです。
しかし、大阪高裁平成25年9月5日判決は、遺言書作成当時の事情、遺言者の置かれていた状況に鑑みると、本件遺言は、遺言者の遺産全部を包括遺贈する趣旨のものであると判断して、遺贈を認めました。
この高裁判決は、最高裁に上告されているようです。
最高裁は、どのような判断をするでしょうか。
(弁護士村松いづみ)
2014-02-07掲載
(法律コラム:離婚・相続)家裁が変わる~新しい家事事件手続法のポイント(その2:調停での同席?)
先日、弁護士会の委員として、家事事件手続法に関する京都家庭裁判所との意見交換会に出席しました。
その席上、家裁側から、今後、調停の際、その手続きの説明については、原則として、双方当事者立会いのもとで行いたいとの提案がありました(実施は、2013年12月2日から)。
主な目的は、当事者が手続きの内容、進行予定、他方当事者の言い分や対立点を的確に理解して共通認識にすること、及び家裁への信頼を図ることです。
あくまで手続きや言い分などを調停委員が説明する場であって、当事者双方が同席して調停を進めるわけではありません。
しかし、例えば、DV事案の離婚調停や遺産分割調停でも鋭く感情的に対立している場合などは、たとえ手続きや対立点でも当事者が同席することが好ましくない、あるいは当事者に大きなストレスを与えることもあると思われます。
従って、とりわけ弁護士を代理人につけていない事件の当事者の方については、たとえ説明だけであっても、相手方と同席したくない場合には、調停委員に対し、はっきりその意思を伝えましょう。
同席を拒否したからと言って、何か不利益となることはありませんので、ご安心ください。
※「新しい家事事件手続法のポイント」(その1:申立書が相手方に送付される)は、2013年4月23日付け法律コラムに掲載しております。
(弁護士村松いづみ)
2013-11-22掲載
(法律コラム・相続)相続税の基礎控除(平成25年度改正)
平成25年度税制改正により、相続税の基礎控除が現行の基準から変更されることとなりました。
改正は、平成27年1月1日以後の相続による取得する財産に係る相続税に適用されます。
改正内容は、下記のとおりです。
(現行)定額控除5000万円+1000万円×法定相続人の数
(改正後)定額控除3000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、夫が死亡し、妻と子ども2人が相続人の場合、これまでは、
5000万円+1000万円×3人=8000万円
となり、遺産が8000万円までは相続税はかかりませんでした。
平成27年1月1日以後は、
3000万円+600万円×3人=4800万円
となって、4800万円を超える遺産があった場合には、相続税を支払わなくてはならなくなります。
(弁護士村松いづみ)
2013-10-07掲載
(最新判例:相続)相続分における婚外子差別は違憲!(最高裁)
ようやく出た違憲判決でした。
2013年9月4日、最高裁大法廷は、裁判官14人全員一致で、結婚していない男女の間に産まれた子(婚外子=非嫡出子)の相続分を法律上の夫婦の子(嫡出子)の半分とする民法の規定(900条4号)について、「法の下の平等を定めた憲法に反する」という初めての違憲判断を下しました。
出生に何の責任もない子を婚外子というだけで差別するこの規定は、家制度を基本とする明治民法から戦後の民法に引き継がれたものでした。
国連が何度も日本に対し是正を勧告しましたが、立法府である国会は改正しようとしませんでした。
それがやっと司法によって実現しました。
なお、最高裁は「遅くとも2001年7月時点で規定は違憲無効」と判断しましたが、「解決済みの相続に影響すれば法的安定性を著しく害する」として、解決済みの事案には効力は及ばないと判示しています
(弁護士村松いづみ)
2013-09-05掲載
(法律コラム:離婚・相続)家裁が変わる~新しい家事事件手続法のポイント(その1:申立書が相手方へ送付される)
2013年1月1日から、新しい家事事件手続法が施行されました。
これまで家庭裁判所で行われる家事事件の手続きについては、昭和22年に制定された家事審判法により定められていました。
しかし、その後、時代とともに我が国の家族をめぐる状況や国民の法意識が変化したことから、現状に適合した内容とするということで、全面的な見直しが行われ、昨年5月に家事事件手続法が制定されました。
ただし、この法律が施行される前に申し立てられた事件には、原則として適用がありません。
改正点は、たくさんあります。1度で説明することは困難ですので、今後このコーナーで少しずつお話していきたいと思います。
まず、大きく変わったのは、調停申立書や審判申立書の写しが相手方に送られるようになりました。
これまでは、相手方には期日の呼出状だけが送られてきましたので、申立人が何を求めているのかは実際に第1回期日に行ってみないとわからないということがよくありました。
申立書が送付されることによって、相手方もそれについて準備をして第1回の期日にのぞむことができるようになったわけです。
ただ、DVなどのため相手方に住所などを知られたくない場合には、別に記載方法がありますのでご相談ください。
調停中に提出する書面や資料は、すぐには相手方の目にはふれませんが、調停が不成立になって審判に移行するような事件の場合(例えば、婚姻費用分担請求や遺産分割など)には、原則として記録を閲覧したり、謄写したりすることが許されます。
よって、最終的には相手方の目にふれることがあるという前提で提出する必要があります。
(弁護士村松いづみ)
2013-04-23掲載
(法律コラム・相続)非嫡出子の相続分差別 最高裁「合憲」判断見直しの可能性
2012年4月20日付けの法律コラム「非嫡出子の相続分差別」でも書きましたが、民法900条4号但書では、結婚届を出さないカップルから産まれた子(非嫡出子)の相続分について、法律上の夫婦の間に産まれた子(嫡出子)の2分の1と定めています。
最高裁は、1995年にこの規定を合憲と判断しましたが、2009年の判決では「もはや立法を待つことは許されない時期に至っている」「現時点では違憲の疑いが極めて強い」などと指摘していました。
本来であれば、立法によって早期に解決すべきですが、夫婦別姓と同様、自民党の中の根強い反対によって実現していません。
他方、最高裁も、最高裁に当該の事件が係属しないと違憲の判断もできませんでした。
それが、やっと実現しそうです。
2月28日付け新聞報道によると、最高裁は、民法の非嫡出子の相続分差別の規定の合憲性が争われている事件の審理を、2月27日、大法廷に回付しました。
大法廷は、憲法判断や判例変更を行う場合に開かれますので、最高裁は違憲の判断を下すことでしょう。
また1つ、不当な差別が解消されそうです。
(弁護士村松いづみ)
2013-02-28掲載
(法律コラム:相続・遺言)遺言の検認手続きについて
「(法律コラム:相続・遺言)遺言書を発見したら~遺言の検認~」の続編です。
先週、家庭裁判所に「遺言の検認」に行ってきましたので、「遺言の検認」手続きがどのように進むのか、ご説明しましょう。
申立人は、検認日当日、遺言書の原本を持参する必要があります。
まず、裁判官が、「検認」というのは、遺言書の現在の状態を確認するための手続きであって、遺言の有効無効の判断をするものではないことを説明されました。
次に、裁判官から申立人に対し、下記のような質問がありました。
①遺言書は預かったのですか?発見したのですか?
②それはいつですか?
③今日までどこで保管していましたか?
④保管を始めて以降、外に持ち出したことはありましたか?
⑤署名の字や印鑑は、遺言者のものかどうかわかりますか?
なお、相続人は、この手続きに同席することができ、もし出席していれば、裁判官は、その相続人に対しても、「遺言書の署名の字や印鑑は、遺言者のものかどうかわかりますか?」という質問をします。
そして申立人には、遺言書が返還され、同席の相続人はそのコピーがもらえます。
以上で手続きは終わりますので、10~30分位の手続きとなります。
(弁護士 村松いづみ)
2012-07-02掲載