労働・労災- 法律コラム -
(法律コラム:労働)パワハラで労働審判
社長からのパワハラなどが原因で退職を余儀なくされた女性労働者が慰謝料などを求めた労働審判事件を担当しました。
申立は、昨年12月末。
依頼者は、まだ20代の若い女性で、ハローワークの紹介を受け、2014年4月に会社に入社しましたが、翌2015年9月退職に追い込まれました。
原因は、社長からのパワハラでした。
申立を準備する中で、残業代が払われていないことや、休憩時間もまともに取れていないことがわかりましたので、申立書の中では、パワハラのほか未払い残業代請求とそのような会社の体質も合わせて主張しました。
労働審判は、2016年2月26日付け法律コラムで書いたように、審理期間が原則3回までとなっています。
本件では、2月下旬に第1回期日が入り、その期日の1週間前に、会社から答弁書が出されましたので、その1週間の間に、再度、依頼者と打ち合わせを重ね、補充の書面を提出した上で、第1回期日に臨みました。
パワーハラスメントとは「同じ職場で働く者に対し、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」と定義されています(厚生労働省)。
従って、たとえ、社長からの仕事に関する「叱責」「指導」「注意」であっても、表現方法や声の大きさ、長さ・回数等の執拗さを総合して、労働者の尊厳や人格を侵害する行為か否かが判断されなければなりません。
本件では、約1年にわたってパワハラ行為がありましたが、会社は、答弁書で、ことごとく否定や弁解をしてきました。
ただ、依頼者は、1日だけ、録音テープをとっていました。
その録音を聴くだけで、普段、社長から、どのような感じで「注意」「叱責」がなされていたのか、リアルに想像することができました。
また、第1回期日において、就業規則を提出するよう求めたところ、ハローワークの求人票には「就業規則あり」と記載されていましたが、実は、就業規則すらない会社であることもわかりました(ハローワークも杜撰です)。
このような経緯から、第2回期日で、早々に調停が成立しました。
社長は、20代の若い女性が、自分にはむかって訴訟をするなどとは考えてもみなかったのでしょう。
少しは経営者としての自覚を持ち、労働基準法を遵守してほしいものです。
録音テープをとるというような依頼者の頑張りがあって、労働審判でも、このような良い結果が得られたものと思います。
(弁護士村松いづみ)
2016-05-25掲載
(最新判例:労働)定年後の再雇用 同じ業務なら賃下げ違法(東京地裁)
横浜市の運送会社を定年後、有期契約で再雇用されたトラック運転手の男性3人が、定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だとして、定年前と同じ賃金を払うよう会社に求めた訴訟で、2016年5月13日、東京地裁は、「業務の内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは、労働契約法に反する」と認定し、定年前の賃金規定を適用して差額分を支払うよう命じました(2016年5月14日付け朝日新聞朝刊)。
原告3人は、横浜市の運送会社で、21~34年間、正社員として勤務。
2014年に60歳の定年を迎えた後、1年契約の嘱託社員として再雇用されました。
業務内容は定年前と全く同じ大型タンク車の運転でしたが、嘱託社員の賃金規定が適用され、年収が約2~3割下がったという事案です。
判決は「『特段の事情』がない限り、同じ業務内容にもかかわらず賃金格差を設けることは不合理」とし、この会社には特段の事情なしと判断しました。
また、会社側は、原告らは賃下げに同意していたとも主張していましたが、判決は、同意しないと再雇用されない恐れがある状況だったことから、これも特段の事情にはあたらないとしました。
「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」によって、2006年から、企業に対し、定年年齢の引き上げや継続雇用制度の導入などが義務付けられています。
年金支給開始年齢が引き上げられ、再雇用で働く高齢者は多くいます。
しかし、定年後に再雇用されても、労働者の弱みにつけこみ、賃金などの労働条件を引き下げる企業は少なくありません。
他方、労働契約法20条は、正社員のような無期雇用で働く人と、再雇用など有期雇用で働く人との間で、不合理な差別をすることを禁じています。
ただ、どのような場合が「不合理な差別」にあたるのか、法律上、明確ではありません。
今回の東京地裁判決は、初めて労働契約法20条を適用した判決と言えるもので、画期的です。
政府が掲げている「同一労働同一賃金」に対し、影響を与えるものとも思われます。
(弁護士村松いづみ)
2016-05-14掲載
(最新判例:労働)録音して業務命令違反 解雇は無効(東京地裁)
職場で上司との交渉や会話を無断で録音したことなどを業務命令違反に問われ、銀行を解雇された女性が解雇の無効を求めた裁判で、東京地裁は、2016年4月11日、「録音は自己防衛の手段と認められ、解雇理由とするのは酷だ」と判断し、解雇を無効とする判決を言い渡しました。
(2016年4月11日付け毎日新聞)
解雇・セクハラ・パワハラなどのような労働紛争の場合、書いた物などの証拠がない時に、「言った」「言わない」ということで、労働者が負けてしまうことも少なくありません。
そんな時、録音は証拠として有効で、弱い立場にある労働者が、裁判所などに自分の主張の正しさを認めてもらう手段としては、とても強い威力を発揮します。
以前、私がセクハラ訴訟に関わった時、被害者女性は、裁判を起こす前に、電話による上司との会話を録音にとり、裁判所に証拠として提出しました。
裁判所が使用者責任を認めることにとても有効でした。
上記の東京地裁の判決は、当然と言えるでしょう。
(弁護士村松いづみ)
2016-04-14掲載
(法律コラム:労働)「女性の活躍推進」の新たなとりくみ(京都労働局)
京都労働局は、女性活躍推進法が4月1日から施行されることに合わせ、相談体制を強化します(2016年3月24日付け京都新聞朝刊)。
これまで、パワハラとセクハラとは、同じ労働局の中でも違う部署が相談を担当していましたが、今後は、企画室と雇用均等室とを統合し、新設された「雇用環境・均等室」が職場でのハラスメント全般を扱います。
希望すれば、女性スタッフが相談対応もしてくれます。
また、この部署では、マタニテイーハラスメントの相談にも応じます。
ちなみに、マタハラに係る相談件数は、過去3年連続100件を超えているそうです。
女性たちが安心して速やかに相談できる体制となることを期待しています。
※ 京都労働局は、
住所:京都市中京区両替町通御池上る
電話番号:075-241-3211(代表)
(弁護士村松いづみ)
2016-03-25掲載
(法律コラム:労働)就職活動中の学生に対する「職場情報」開示義務(3月1日から)
今日3月1日から来春卒業予定の大学生らの就職活動が本格スタートしました。
そのような就職活動中の学生が求めた場合、企業に職場情報の提供を法律で義務付ける制度が今日3月1日から始まりました(2016年2月25日付け京都新聞朝刊)。
この制度は、昨年9月に成立した青少年雇用促進法にもとづくものです。
企業は、就活生からの要請があれば、下記の情報については提供する義務を負います。
対象は、
①離職率や平均勤続年数といった「募集・採用」
②月平均の残業時間や有給休暇・育児休業の取得の「雇用管理」
③研修制度の有無など「職業能力の開発・向上」
の3項目です。
ブラック企業が社会問題となる中、職場の実態を事前に知ることで就職先を選びやすくし、不本意な早期離職といったつまずきを防ぐのが狙いと言われています。
ただ、企業の開示義務は3項目からそれぞれ1要素以上を提供すれば良いとなっています。
つまり、1つの項目の中でどの要素を開示するかは企業が選択できるので、例えば、学生が知りたいのは有給休暇のことであっても、企業が開示したのは育児休暇のことで、学生の会社選びには十分に役立たないケースも出てくる可能性もあります。
他方、学生側からすると、企業の開示義務は学生からの請求が前提となっており、問い合わせることにより企業に悪印象を持たれ採用されないという不利益を恐れて開示請求をためらうという懸念もあります。
厚生労働省は、そうした不利益をしないよう指針を定め、企業に周知徹底することにしています。
労働現場における大きな前進になると良いのですが。
(弁護士村松いづみ)
2016-03-01掲載
(法律コラム:労働・労災)労働審判とは
労働についてトラブルが起こった場合の解決のための手続きの1つに「労働審判制度」があります。
労働に関する裁判は、解決に至るまで長期間かかることが多く、権利を侵害されても裁判に踏み切ることを躊躇する労働者は少なくありません。
そこで、簡易・迅速に労使紛争の解決を図ることを目的として、2006年4月から開始されたのが「労働審判制度」です。
労働審判は、地方裁判所で行われる手続きです。
対象事件は、個々の労働者と使用者との間に起こった民事に関する紛争ですので、労働組合活動によるものなどは対象外となります。
労働審判は、裁判官である労働審判官1名と労働審判員2名の計3名が共同して委員会を構成し手続きを進めます。
労働審判員は、使用者団体と労働団体からそれぞれ推薦された労働関係の専門家が任命されます。
審理の期間は、特別な事情がある場合を除き、3回以内とされていますので、第1回期日までにしっかり準備をしておく必要があります。
第1回から第2回期日に、争点整理と証拠調べなどが行われます。
早ければ第2回期日に、そして第3回期日には、委員会から調停案が示されます。
調停案がまとまらなければ、労働審判書が作成され、これに不服な当事者は、2週間以内に書面で異議の申し立てを裁判所に提出しなければなりません。
異議の申し立てがなされれば、通常の訴訟に移行します。
なお、当事者の代理人となれるのは、現在のところは弁護士に限られています。
(弁護士村松いづみ)
2016-02-26掲載
(最新判例:労働)退職金減額、職員に十分な説明必要(最高裁)
山梨県内の信用組合が合併を繰り返し、現在に至る山梨県民信組が退職金を減らしたのは不当として、旧峡南信組出身の元職員12人が合併前の基準での支払を求めた訴訟で、最高裁は、2016年2月19日、賃着や退職金を不利益変更する際は、労働者側に「十分な情報提供や説明が必要」とする初めての判断を示しました(2016年2月20日付け京都新聞朝刊)。
元職員らは、退職金の規定変更の同意書に署名押印しており、第1審の甲府地裁も原審の東京高裁も「合意書への署名は有効な意思表示だった」として、元職員らに対し敗訴判決を言い渡していました。
しかし、最高裁は、「労働者は同意の基礎となる情報を収集する能力に限界がある。署名押印があったとしても、労働者への事前の情報提供の内容などに照らして判断すべき」と指摘しました。
しかも、最高裁は、その説明内容について「自己都合退職の場合には支給額が0円になる可能性が高くなることなど、具体的な不利益の程度を説明する必要があった」などとして、審理が尽くされていないと判断し、高裁に差し戻しました。
労働条件の変更には、形式的な同意ではなく、十分な説明を受けた上での労働者の自由な意思表示が必要と判断したことは、当然とは言え、画期的なものと言えるでしょう。
(弁護士村松いづみ)
2016-02-23掲載
(法律コラム:労働)12月から始まった「ストレスチェック制度」
昨年、労働安全衛生法が改正され、労働者が50人以上いる事業所では、2015年12月から、毎年1回、「ストレスチェック」の実施が義務付けられました。
なお、50人未満の事業所については、当面の間、努力義務とされています。
「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票に労働者が記入し、それを集計・分析することで、自分のストレスがどのような状態にあるのかを調べる簡単な検査です。
労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合は医師の面接を受けて助言をもらったり、使用者側に仕事の軽減などの措置を実施してもらったり、職場の改善につなげたりすることで、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するためのしくみです(厚生労働省のパンフレットより)。
ストレスチェックと面接指導の実施状況は、毎年、労働基準監督署に所定の要式で報告する必要があります。
従って、使用者としては、いつ頃、どのような手段で実施するかなどの具体的な方針を決める必要があります。
なお、ストレスチェックは、使用者にその実施が義務付けられていますが、労働者にはそれを受ける義務はありません。
ですから、それによって、労働者に対し不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
(弁護士村松いづみ)
2015-12-02掲載
(最新判例:労働)マタハラ裁判、「妊娠降格は違法」(広島高裁)
当コラム(2014年10月24日付け)でもご紹介しましたが、
広島市の病院に理学療法士として勤務していた女性が妊娠を理由に降格されたことが男女雇用機会均等法に反するかが争われ、2014年10月23日、最高裁が初めて違法と判断しました。
そして2015年11月17日、その訴訟の差し戻し控訴審判決が広島高裁でありました(2015年11月18日京都新聞朝刊)。
広島高裁は、女性に対し慰謝料を含め175万円の賠償を支払うよう病院側に命じました。
最高裁は、妊娠による降格は原則禁止で、許される例外としては、自由意思による同意か業務上必要な特段の事情がなければ違法無効という判断を示していました。
それについて、広島高裁は、いずれも認められないとし、「病院は、使用者として女性労働者が母性を尊重し職業生活の充実の確保を果たすべき義務に違反した過失がある」と判断しました。
最高裁判決が下されてから1年以上が経過し、厚生労働省は、マタハラ防止に本腰を入れ始めましたが、マタハラ被害はあとを絶ちません。
使用者に対する行政の強力な指導やルール作りが早急に求められます。
(弁護士村松いづみ)
2015-11-19掲載
(法律コラム:労働)厚労省マタハラ初調査、派遣社員48%がマタハラ経験
妊娠・出産や育児休業などを理由に職場で不当な扱いを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)。
厚生労働省は、9~10月に、25~44歳で就業経験がある女性を対象に、初めて調査を実施し、約3500人から回答がありました(2015年11月12日付け京都新聞朝刊)。
その結果、特に雇用が不安定で立場の弱い派遣社員が被害に遭う割合が高く、妊娠・出産した派遣社員の48%が「マタハラを経験したことがある」と回答しました。
契約の打ち切り・退職強要など、正社員以上に身分が不安定な実態が浮き彫りになっています。
「女性活躍推進法」が成立しましたが、非正規労働者として働く女性が増加する中、このような実態では、女性が安心して職場で「活躍」することなど、とうてい叶いません。
マタハラは、雇用機会均等法や労働基準法などに明らかに違反するものです。
厚生労働省は、法違反の不利益取り扱いを行った場合に行政指導を行ったり、悪質な場合には事業主名の公表も行います。
マタハラを受けている労働者、それを見聞きされた同僚の方々は、各都道府県の労働局雇用均等室に相談しましょう(相談は無料・匿名でも大丈夫です)。
京都の雇用均等室は、075-241-0504です。
(弁護士村松いづみ)
2015-11-13掲載