その他- 法律コラム・最新判例 -

(法律コラム:離婚・その他)DVとマイナンバー制度

 

本年10月5日から、いわゆるマイナンバー法が施行されます。

 

個人情報との関係では、色々と問題が多い法律で、現在、これについての訴訟も起こっています。
他方、離婚事件などにおいて、マイナンバーに関する法律相談も少しずつ目立っています。

 

マイナンバーが記載された通知カードが、市町村から住民票上の住所(住所地)に世帯ごとに簡易書留で送付されることになります。

 

そこで、やむを得ない理由により住所地において通知カードを受け取ることができない人の場合については、実際住んでいる居所において通知カードを受け取るためには、住民票のある住所地の市区町村に対し、居所情報を登録する必要があります。
但し、申請期間が、8月24日から9月25日までなので、あまり時間がありません。

 

国が「申請が必要な方」として、例示しているのは、
●東日本大震災による被災者で住所地以外の居所に避難されている方
●DV、ストーカー行為等、児童虐待等の被害者で住所地以外の居所に移動されている方
●一人暮らしで、長期間、医療機関・施設に入院・入所されている方

 

申請書は、近くの市区町村や総務省のホームページなどで入手又はダウンロードできます。
夫からDVを受けて避難されている方は、速やかに申請書を提出しましょう。

 

マイナンバーのお問い合わせは、コールセンター:0570-20-0178へ。
あるいは、住民票の住所地の市区町村にお問い合わせください。

 

(弁護士村松いづみ)

(法律コラム:その他)民法改正法案について(その3)

 

今回は、社会に広く浸透している個人の「保証」について解説します。
なお、本解説は、日本弁護士連合会発行の「自由と正義」2015年5月号を参照しています。

 

他人の債務の保証については、大きな責任を伴います。
そのため、個人保証については、その保護を行うべきであるという意見が以前より存在しました。
そこで、改正法案の審議の結果、
「事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約又は主たる債務の範囲事業のために負担する貸金等債務が含まれる根保証契約」
に対象を限定の上、これらの契約については、保証人になろうとするものが法人である場合を除き
「その締結の日前1箇月以内に作成された公正証書で保証人となろうとする者が保証債務を履行する意思を表示していなければ、その効力を生じない」
という規定となっています(改正法案465条の6第1項)。

 

「事業のため」のための債務は巨額になることが多いので、保証契約締結前に、公正証書での「保証の意思の確認」を求めたことが大きな改正点となっています。

 

なお、改正法案には、適用除外規定があります。
それは、主たる債務者が、法人の場合は、その法人の取締役等や株主総会の議決権の過半数を有する者は従来通り、公正証書は不要で、単なる書面で保証契約が締結できます。

 

その他、改正法案の審議の過程で、実際の金融の必要性から、「主たる債務者(法人は除く)が行う事業に現に従事している主たる債務者の配偶者」についても公正証書は不要とされました。

 

今回の改正法案は、保証契約を書面で行うこと(現行民法446条2項)を求めた現行民法をさらに進めたものです。
ただし、今回の改正法案は、「保証意思の表示」を公正証書で行うことを義務付けたものであり、「保証契約」そのものを公正証書で行うことを求めたものではないことに注意が必要です。
これは、保証契約そのものの公正証書化を要求すると、その公正証書が、債務名義となって訴訟手続をとることなく強制執行を行うことが可能となり、かえって個人の保証人の保護を図った趣旨に反するからです。

 

そこで、個人保証人保護の観点から、保証契約そのものと「保証意思の表示」については、厳格に区別し、改正法案の趣旨が活かされるような運用を行っていくこと(例えば、「保証意思の表示」と同一の機会に「保証契約」を公正証書によって締結することを禁止する等)が望まれます。

 

(弁護士 岡村政和)

(法律コラム:離婚・その他)元夫が破産したら、養育費はどうなるのか?(非免責債権)

 

離婚に際し、養育費の取り決めをしたのに、離婚後、元夫が自己破産をした場合、その養育費はどうなるのでしょうか?

 

債務超過で自己破産の申立をし、裁判所で破産原因があると認められれば、破産手続き開始の決定がなされます。

そして、裁判所は、最終的に、特に悪質な事案でない限り、「免責」と言って、破産者の残った借金をチャラにしてくれます。

債権者にとっては酷なことでしょうが、破産者の更生のために法が認めた制度です。

 

しかし、法は、破産者に免責決定が出ても、それでもなお免責されない債権をいくつか定めています(非免責債権、破産法253条)。

税金や横領した場合の損害賠償金などがその代表例ですが、離婚に伴う子どもの養育費も免責の効果が及ばないものとして除外されています。

養育費のほか、婚姻費用分担金などは要保護性が強い請求権であることから非免責債権とされているのです。

ですから、堂々と取り立てることができるわけです。

 

(弁護士村松いづみ)

 

 

(法律コラム:その他)父死亡後に「認知」を求める方法

 

法律上の婚姻関係がない男女の間に生まれた子どもで、父親が認知をすることなく死亡した場合、どのような方法で「認知」を求めることができるでしょうか。

 

民法は、子どもやその孫などの直系卑属、またはこれらの者の法定代理人(例えば、親権者母)は、認知の訴えができると定めています(789条1項)。

但し、父親が死亡してから3年が経過すると、できなくなります(789条2項)。

 

認知請求訴訟の相手方(被告)は、検察官となります。

 

訴訟では、死亡した父親と子どもとが親子関係にあることを証明しなければなりません。

母親の証言や様々な記録などを提出したりして、それを裏付けます。

死亡した父親のDNAがわかるものが残っておれば、それを利用してDNA鑑定をすることもできるでしょう。

 

私が以前関与した事件では、子どもと父方の祖父母とのDNA鑑定を行い、祖父母確率は「99.99%」という結果を得、認知が認められました。

 

もし、祖父母が健在ではない場合には、父親の兄弟姉妹との間のDNA鑑定もあり得るかもしれません。

 

(弁護士村松いづみ)

 

 

 

 

 

 

(法律コラム:その他)民法改正法案について(その2)

 

今回は、民法改正法案のうち、日常生活に密接に関連している「契約の解除」について解説します。

 

(解除の要件について)

現行民法は、債務者の帰責事由を解除の要件としています。

今回の改正法案では、債務者の帰責事由を要件としないこととしました。

現行民法は、解除の立法趣旨を債務者に帰責事由のある場合の制裁の制度として位置付けていましたので、債務者の帰責事由を要件としていました。

改正法案は、債務者の債務不履行に対して、契約の拘束力から債権者を解放するための制度として位置付けました。

すなわち、債務不履行状態が存在する以上、債権者を契約に拘束する合理的理由がないという理由から債務者の帰責性は不要としています(改正法案543条)。

 

(催告解除と無催告解除)

次に、催告解除と無催告解除についても整理がされました。

催告解除については、催告したのに履行しないとき、重大不履行や契約目的不達成を要件とすることなく原則として解除することができます。

他方、催告期間経過後の債務の不履行が、その契約の内容や取引上の社会通念に照らして軽微であるときには解除できないものとしました(改正法案541条)。

たとえば、数量的にわずかな不履行の場合、附随義務違反にすぎない場合などは催告解除も認められないことになります。

無催告解除について、改正法案は、新たに「全部解除できる場合」、「一部解除しかできない場合」に分けて規定しました。

そして、

①全部が履行不能の場合

②全部の履行拒絶意思を明確に表示した場合

③一部の履行不能又は履行拒絶の場合に残存する部分のみでは契約目的を達成できない場合

④催告しても契約目的を達成できない場合

には無催告で全部解除ができるようにしました。

債務の一部の履行不能又は履行拒絶の場合に、契約の一部を解除できるものとしました(改正法案542条)。

 

(契約不適合の場合の解除)

現行民法では、売買契約や請負契約に不適合(種類、品質、数量に不備がある場合)がある場合、特則で、契約の目的を達成できないときに無催告解除が出来るとされています(570条、566条1項、635条)。

しかし、改正法案では、債務不履行の一般法理が適用されます(改正法案564条)から、催告解除を行うことも出来ます。

従って、例えば、請負契約において建物建築に不適合があり、契約内容や取引上の社会通念に照らして軽微でないと評価されるときは、契約目的を達成できる場合であっても催告解除ができるということになります。

他方で、建物建築に不適合があり、修補請求が不能の場合は、催告解除ができず、修補が不能なために契約目的を達成できない等の無催告解除の要件が充足されたときに限り、解除ができることになります。

 

(弁護士 岡村政和)

(法律コラム:その他)カルテの開示

 

「カルテの開示」については、2012年7月6日付け当コラムに書いたことがありました。

 

ところが、厚生労働省の検討会が、2014年12月から2015年1月にかけて、過去半年以内に入院や通院の経験がある男女5000人に「医療機関のカルテ開示義務」を知っているかどうか聞いた結果、4割を超える人が「知らない」と答えたそうです。また、実際に開示を求めたことがあるとした人は1割にも満たなかったそうです(2015年7月21日付け京都新聞朝刊)。

 

厚生労働省が患者の求めに応じた開示義務を医療現場向けの指針に盛り込んでから10年以上がたちました。

しかし、患者が自らの症状や治療方針、経過を理解するための「カルテの開示」制度が十分に周知されていない現状が浮き彫りになりました。

 

開示義務が適用されるのは、5000人以上のカルテがある医療機関ですが、厚生労働省は、小規模であっても、開示請求があれば、応じるよう求めています。

 

開示請求をするのに、医療機関に理由を告げる必要もありません。

 

患者が開示義務を知らない人が4割もいるとのことですが、中には、医療機関の職員も「知らない」人がおり、「弁護士の請求書面を持って来てください」「弁護士会照会で請求してください」などの対応をする所もあるようです。

そんな時には、「このコラムをプリントアウトして持参し、職員に見せてください」とアドバイスをしています。

 

また、カルテの保存期間の義務は、5年です(医師法24条)が、病院によっては、5年過ぎていても残している所もありますので、5年過ぎていても請求してみましょう。

最近関わった事件で、平成20年に死亡された患者さんのケースで、同じ病院に平成9年から受診されており、カルテも残っており、平成9年の初診時のカルテを取り寄せることができました。

 

(弁護士村松いづみ)

 

 

 

(法律コラム:その他)民法改正法案について(その1)

 

私たち市民の日常生活に密接に関連している法律である民法。
その改正法案(民法の一部を改正する法律案)が2015年3月31日に国会に提出され、現在、国会で議論されています。
今回から複数回に分け、民法改正法案の総論、各論それぞれについて説明します。

 

今回は、総論のうち、「消滅時効」及び「法定利率」の改正法案について説明します。

 

1、消滅時効改正のポイント

 

現行民法167条1項は「債権は、10年間行使しないときは、消滅する」と定めています。
これを「消滅時効」と言います。

 

改正法案166条1項は「債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、または権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないときは、時効によって消滅する」としています。
消滅時効によって権利行使が出来なくなる期間が10年から5年に半減したことになります。

 

また、現行民法170条から174条には、職業別に様々な短期消滅時効(1年から3年)が定められています。
しかしながら、職業による短期消滅時効に合理的理由が見いだせないという理由で、改正法案では廃止されることとなっています。

 

改正法案では、5年間の期間があれば、損害賠償請求訴訟を提起することも十分可能であると考えられたようです。
契約の不履行の損害賠償請求権についても現行民法の10年から5年間に短縮されるので、注意が必要です。

 

さらに、生命身体という保護法益の重要性に鑑み、生命身体の損害賠償請求権について特例が設けられました(改正法案167・724条)。
まず、現行民法724条は、一律に、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を「被害者が損害及び加害者を知った時(主観的起算点)から『三年間』行使しないとき」としていますが、これを「5年間」と改め、契約不履行の損害賠償請求権の時効を主観的起算点から5年にしたことと均衡を取りました。
同様に、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効について、現行民法が、客観的起算点から「10年」としている部分を「20年」とし、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を客観的起算点から「20年」としている現行民法に一致させました。
改正法案によって、債務不履行であっても、不法行為であっても、主観的起算点から5年、客観的起算点から20年として消滅時効の期間が整備されました。

 

但し、医療過誤等による安全配慮義務違反は、医師の過失による医療ミスがあったことを知った時から5年(主観的起算点)となりますので、従来よりも損害賠償請求権行使期間が短くなることに注意が必要です。

 

2、法定利率改正のポイント

 

法定利率とは、法律上定められている利率のことで、現行民法では5%(404条)、現行商法では6%(514条)となっています。
契約等で定めがない場合、遅延損害金の利率となります。

 

しかし、低金利時代が長く続き、5%という利率が時代にそぐわないという議論がありました。
また、交通事故の被害者は、将来に得られたはずの利益を失ったこと(逸失利益)による損害賠償を請求することが出来ます。
その際、将来にわたって得られる利益を現時点ですべて請求できることから中間利息が控除されることになりますが、法定利率の5%もの中間利息が控除されることは、被害者にとって酷であるという議論もありました。
そこで、変動金利の導入が検討されました。
しかし、市場金利の変動に合わせて法定利率を変動させることは債権管理を煩雑にするということで、議論の末、緩やかな変動制が採用されたのです。

 

具体的には、改正法案は、
①現行の5%を3%に下げる
②今後は3年毎に見直し、
③過去5年間60ヶ月の短期貸付利率の平均利率を算出し
④その平均利率がその前の時点の平均利率と1%以上の乖離が生じたときに
⑤乖離幅の1%未満を切捨て、1%単位で変動させる
⑥発生した債権の法定利率はその後変動させない
⑥現行商法514条(商事法定利率6%)の廃止
という「緩やかな自動変動型固定利率制」を採用しました。

 

(弁護士 岡村政和)

(法律コラム:その他)安全保障関連法案について

 

今回は、現在、今国会で、審議されている安全保障関連法案について取り上げたいと思います。
安全保障関連法案とは、日本の今後の安全保障に影響を与える法律の総称のことを言います。

 

まず、今国会で初めて議論される存立危機事態という概念から、安全保障関連法案について見ていきたいと思います。

 

今国会では、集団的自衛権の行使を前提として、既存の法律の中に、「存立危機事態」という概念を入れ込み、集団的自衛権の行使を行えるように安保法制関連法案の法改正が目指されています。
「存立危機事態」とは、政府の説明によれば、日本以外の他国への武力攻撃で、日本の存立が脅かされる明白な危険のある事態のことを言うとされています。
今国会では、個別法(例えば、特定公共施設利用法、米軍支援法、海上交通規制法等)への「存立危機事態」の導入によって、例えば、米国が攻撃を受けた際、日本の自衛隊が海外に派兵される可能性も飛躍的に高まることになるのです。
そして、これらの個別法による自衛隊派兵には、国連の決議が不要となっています。

 

次に、「重大影響事態法」が、既存の周辺事態法を改正する形で、国会で審議されています。
しかし、周辺事態法が「日本周辺」の平和と安全に重大な影響を与える事態が発生した場合を想定して作られた法律であるのに対し、重大影響事態法は、「日本周辺」という要件を削除しています。
すなわち、世界のどこでも、日本の平和と安全に重大な影響を与えるケースと認められれば、自衛隊が海外に派兵されることになります。注意しなければならないことは、重大影響事態法における自衛隊の海外派兵の際、国際連合の決議は必要ではないということです。
そして、重大影響事態法が予定している自衛隊の活動内容は、武力行使を行う米軍等の支援活動で、具体的には弾薬の補給、航空機への給油等があります。
また、重大影響事態法による自衛隊の活動場所としては、今までのような後方地域という限定は無くなり、現に戦闘行為が行われている場所以外はすべて認められることになります。

 

さらに、国際平和支援法(海外派兵恒久化法)という新法案があります。
国際平和支援法が適用される要件は、国際社会の平和と安全が侵害される状況で、国連決議が存在している時とされています。
国際平和支援法による自衛隊の活動内容は、武力行使を行う他国軍部隊への協力支援活動で、相手国に制限はありません。
また、自衛隊の活動場所として、重大影響事態法と同じく、非戦闘地域の限定は無くなり、現に戦闘行為が行われている場所以外は認められることになります。

 

最後に、PKO協力法(国際平和協力法)が、大幅に改正されようとしています。
すなわち、改正によって、「安全確保活動」として、自衛隊が特定地域保安のための監視、駐留、巡回、検問、警護等を含む広範な活動に拡大しようとしています。
また、自衛隊は、任務遂行のための武器使用が認められることになります。

 

このように、「存立危機事態」の導入、重大影響事態法、国際平和支援法、PKO協力法によって、切れ目のない自衛隊の海外派兵が可能となってしまいます。
具体的には、国連決議の存否によって、米軍支援法等・重大影響事態法と国際平和支援法の使い分けによる自衛隊の海外派兵が可能となり、停戦合意後も、特定地域の保安を任務として、自衛隊が海外に派兵されることになります。

 

今国会では、「集団的自衛権の行使は日本国憲法上許されない」としてきたこれまでの政府見解を変更し、日本が海外で戦争できるようにする法案が国民の十分な理解のないまま可決されようとしています。
国民による反対の声が重要です。皆さんの反対の声を国会に届けましょう。

 

(弁護士 岡村政和)

(最新判例:その他) 山岳救助隊の過失を認定

 

【事案の概要】

Aさん(当時38歳)は、2009年1月31日、スノーボードを楽しむため、日帰りの予定で、仲間2人と伴に、北海道積丹半島にある積丹岳(1255m)に向かった。仲間2人は途中で引き返したが、Aさんだけが午後1時40分頃に頂上まで登った。

頂上付近は吹雪でホワイアウトしており危険なので、Aさんは坪足で下山をしていたが、視界不良のためビバーグし、午後3時過ぎに仲間に無線で救助要請をした。

救助要請を受けた北海道警察は、ヘリコプターで山頂付近を捜索したが、厚い雲に覆われ、日没となったため発見できなかった。その後、北海道警察は、日没後であり、吹雪いていたので、この日の捜索を断念したが、5名の救助隊を編成して現地に向かわせた。

翌2月1日午前5時30分に救助隊は出発し、積丹岳頂上付近に向かった。吹雪の中の捜索で、午前11時59分頃に、山頂東側斜面上でやっとAさんを発見した。救助隊は、9合目付近で待機している雪上車に向かい、隊員2名がAさんの両脇を抱えて徒歩で移動を開始した。

移動を開始して約5分後、発見地点から約50m東側の地点で、雪庇を踏み抜いて、Aさんを含む3名は稜線から南側斜面に滑落した(第1滑落事故)。南側斜面は、斜度が40度位の急斜面であり、Aさんは約200m滑落した。

救助隊の3名は、南側斜面を下ってAさんの元に行き、Aさんをシュラフに包んだ上でストレッチャーに乗せて縛着し、2名が引き綱を引いてストレッチャーを上から引き、残り1名がストレッチャーを下から押す方法で引上作業を始めた。

3名の隊員は、約1時間かけて、Aさんを稜線の滑落場所から約50mの地点まで引き上げた。ところが、1名の隊員の疲労が激しいため、稜線上の隊員と交代させるため、交代するまでの間、ストレッチャーを南側斜面上で固定することにした。

隊員は、携行装備していたウェビング(繊維性のひも)をストレッチャーに結束していたシュリングと着脱式ベルトの輪に通し、その両端を近くに自生していたハイマツの幹と枝に、いずれも「ひと回りふた結び」の結び方で結束した。

疲労していた隊員は稜線に向かい、残り2名の隊員はAさんザックを回収するためにAさんが滑落していた場所に向かって下って行ったので、ストレッチャーのそばには隊員はいなくなった。

その後、隊員が交代する前に、ストレッチャーがハイマツから離れ、Aさんはストレッチャーに乗せられたままで、ストレッチャーは下の崖を越え、さらに下に滑落していき、見えなくなった(第2滑落事故)。結局、救助隊は、その日の捜索を断念した。

翌2月2日、ヘリコプターによる捜索で、ストレッチャーに乗せられたままのAさんが発見され、病院に搬送されが、死亡が確認された。直接死因は凍死と診断された。

 

【札幌地裁2012年11月19日判決(判例時報2172号77頁)】

一審判決は、第1滑落事故について、概ね次のとおり述べて救助隊員に過失があると認定した。

雪上車の待機場所はほぼ東の方向であったが、風雪のため雪上車は見えない中で、隊長がとった進行方法は、コンパスで方位を確認し指で指示したもので、コンパスは滑落までの間に数回確認したにとどまり、この方法では当時の天候等の状況から進行方向が南にぶれやすいといわざるを得ず、GPSを利用して自分がたどってきた場所をポイントとして固定して位置を後から確認しながら下山する、あるいは常時コンパスで方角を確認しながら進行方向を指示するなど、当時の状況下で採りうる他の方法を採らなかったことに過失があるとした。

 

【札幌高裁2015年3月26日判決(未公刊)】

控訴審判決は、一審判決と異なり、第2滑落事故について、概ね次のとおり述べて救助隊員に過失があると認定した。

ハイマツはしなる性質があること、「ひと回りふた結び」の結び方は荷重がかかると結び目自体は締まるが、結び目の先の輪(幹、枝に掛けて固定する部分に形成される輪(結び目の輪)は締まらないこと、荷重がかかると結び目の輪が締まり、ずれにくい結び方として、「ブルージック」、「オートブロック」、「クレイムハイスト」があり、「ひと回りふた結び」以外の荷重がかかると結び目の輪が締まる結び方でハイマツの根元に近い幹の部分に結束することが困難であったとは認められないこと、「ひと回りふた結び」の結び方で枝に結ぶと、結び目の輪が枝の先の方にすべり、しなった枝から抜け落ちるおそれのあることは容易に予見できたこと、少なくとも1名の救助隊員がストレッチャーのそばにいるのが困難な事情はうかがわれないにもかかわらず、救助隊全員がストレッチャーのそばを離れたことから、救助隊員にはハイマツへの結束方法及び救助隊全員がストレッチャーのそばを離れたことに過失があるとした。

 

【山岳救助隊員には豊富な知識と経験が求められている】

警察の山岳救助隊による遭難者の搬送責任が問題とされた先例は見当たらないようである。この一審判決、控訴審判決を読んでも、内容が専門的過ぎて、一般の人には理解することが出来ないと思われる。冬山登山の豊富な経験者、登攀経験者なら理解できるかもしれない。

当職は、冬山登山はしないが、夏には北アルプスなどに登っており、冬はスキーをしている。救助隊は、3名の人力で、Aさんが稜線から約200m滑落した地点から稜線まで引き上げようとしたが、これは至難の業である。斜度40度の斜面をスキー板を履いてカニ歩きで200m登ることも極めて困難で、余程の体力がなければ登れない。国土地理院の地図を見れば、滑落した地点から東方向に水平移動すれば、登山道に出られることが分かる。救助隊がストレッチャーを引いてなぜ水平移動しなかったのか、疑問である。二つの判決もこの点については触れていない。

いずれにしても、この二つの判決は、山岳救助隊員に、冬山登山、登攀、山岳救助方法などについて豊富な知識と経験、訓練を求めている。

(弁護士 村井豊明)

(最新判例:その他)グーグルに口コミ削除の仮処分決定(千葉地裁松戸支部)

千葉地裁松戸支部で、本年4月7日、

インターネット上の投稿削除に関する珍しい決定が出ました。

 

事案は、Googleマップの「クチコミ」機能で、

とある施設に対する中傷的内容の「クチコミ」を記載され、

当該施設がGoogleに対し、

クチコミの削除を命じる仮処分を申し立てたというもので、

施設側の主張が受け容れられ、

クチコミ削除を命じる仮処分決定がなされたというものです。

 

以前に書いたコラム

インターネット上の書き込みを削除したい②

でご紹介した、仮処分で早急に書き込みを削除させる

という方法をとったもののようですが、

Googleマップ上のクチコミを削除させた例というのは

余り聞いたことがなく、珍しい決定であると思います。

 

決定文が入手できていないので、

現時点で分かる情報は上記くらいですが、

また詳細を追ってみたいと思います。

 

(弁護士 日野田 彰子)

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