その他- 法律コラム -
(最新判例:その他)性別変更男性を父親と認定(最高裁)
性同一性障害で女性から男性に性別を変更した夫とその妻が、第三者からの精子提供で人工授精してもうけた子どもを嫡出子として戸籍に記載するよう求めた裁判で、最高裁は、2013年12月10日、「血のつながりがないことが明らかでも夫の子と推定できる」として、法律上の父子関係を認める初めての判断を示しました。
民法772条は、妻が結婚中に妊娠した場合、嫡出子(夫の子)と推定すると規定しています。
母子関係は出産という外観的な事実から確定できますが、父子関係は直接の証明が難しく、推定によって家庭の平和を維持し、子の法的地位の早期安定を図る目的で定められています。
しかし、性同一障害のため性別変更をした男性と母親との間で子どもを懐胎することは不可能として、下級審判例は、民法の推定規定は適用されないとしてきました。
今回、最高裁は、「妻と子をつくることが想定できない夫に結婚を認める一方で、血のつながりがないことを理由に父子関係を認めないことは許されない」と判断しました。
性同一障害特例法にもとづき法的な夫婦関係を認めた以上は、妻の子を夫の子としてみるべきだとしたのです。
今後も、家族の多様化に応じた法の整備が求められます。
(弁護士村松いづみ)
2013-12-12掲載
(最新判例)出生届に、婚外子の記載は不要(最高裁)
9月4日、民法上の婚外子の相続分規定が違憲であるとの判断を下したばかりの最高裁ですが、婚外子差別をめぐって、2013年9月26日、また、新しい判決が下りました。
争いとなったのは、出生届の記載でした。
戸籍法49条によると、現在の出生届には、続き柄欄に、子どもが嫡出子か非嫡出子かを区別して記載しなければなりません。
それをSさん夫婦は、区別を記載せずに提出したところ、出生届が受理されなかったため、これを不服として世田谷区と国に損害賠償などを求めていました。
最高裁は、「出生届に記載しなくても、自治体が両親の戸籍を照会するなどして婚外子かどうか判別することもでき、必要不可欠とは言えない」という初めての判断を下しました。
しかし、「規定は、自治体の戸籍上の事務処理を行いやすくするためのもので合理性があり、婚外子を差別するものではない」とし、結論としては、Sさん夫婦の敗訴が確定しました。
他方、本件の下級審は「差別を助長するとの見方があり、撤廃しないことに憲法上の疑問がある」と判示していましたし、最高裁判決の中でも「親の結婚の有無は他の手段でも確認できる。記載内容の変更や削除を含めた見直しが望まれる」との補足意見がありました。
これには後日談がありました。
兵庫県明石市は、10月1日から独自に婚外子か否かの区別のない出生届を作りましたが、神戸地方法務局から是正指導を受け、いったん中止となりました。
出生届にわざわざ婚外子か否かの区別を記載する理由が見いだせません。
速やかな法改正が望まれます。
(弁護士 村松いづみ)
2013-10-07掲載
(最新判例:その他)性同一障害と父子関係(大阪家裁)
このような裁判が争われていたのですね。
性同一障害で、性別を女性から男性に変更した男性が、第三者から精子提供を受けて妻が出産した次男と父子関係があることの確認を求めた訴訟の判決で、大阪家裁は、9月13日、男性の請求を棄却しました(2013年9月13日付け京都新聞夕刊)。
性同一障害については、2003(平成15)年に「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が制定され、法が定めた要件を満たす人については、家庭裁判所が審判により、法令上の性別の取り扱いと、戸籍上の性別記載を変更できるようになりました。
これによって、戸籍上の性別を例えば「長男」を「長女」に変更したり、変更後の性で婚姻届を出すことができるようになりました。
今回の裁判は、次男の出生届を提出しましたが、役所は、性別の変更が記載された戸籍から生殖能力がないとして男性を父と認めず、職権で父親欄を空白にした次男の戸籍を作成したため、男性が父子関係を確認する訴訟を起こしたものです。
民法は、妻が婚姻中に懐妊した子を「夫の子と推定する」と規定しています(民法772条1項)が、判決は、「母が夫との性交渉で次男を懐妊することが不可能だったのは戸籍の記載から明らか」として、民法の推定は及ばないと判断しました。
人工受精によって出産した子どもの場合には、民法上の「推定」によって、戸籍上は父子関係が認められるのに、本件の場合、取扱が異なることはわりきれません。
また民法772条については、長期間別居していた夫婦の場合や夫に生殖能力がなかった場合でも、逆に「夫の子」と「推定」されてしまうという不都合もあります。
先日の最高裁が下した婚外子に相続分の違憲判決もあり、家族制度の変化に対応した法制度が望まれます。
(弁護士村松いづみ)
2013-09-15掲載
(最新法令・その他)改正ストーカー規制法・改正DV防止法成立
相次ぐストーカー殺人事件などを防ぐため、つきまといや、同居する恋人間の暴力への対策を強化する改正ストーカー規制法と改正DV防止法が、6月26日成立しました。
ストーカー規制法の改正は、2000年の成立以来、初めてです。
ストーカー規制法の主な改正点は次のとおりです。
①しつこいメールを「つきまとい」行為に追加
②被害者の住所地だけでなく、加害者の住所地などの警察や公安委員会も警告や禁止命令を出せるようにする。
③警察が警告を出したら、速やかに被害者に知らせ、警告しない場合は、理由を書面で通知するよう義務化、など。
DV防止法は、現在は、事実婚を含む配偶者や元配偶者の暴力に限っている対象を、「生活の本拠を共にする交際相手からの暴力」にも準用します。恋人と同棲している場合にも適用されるわけです。同居期間は問わず、同居解消後に暴力を受けている被害者も対象となります。
ただ、いずれにしても、警察が被害者の訴えをきちんと取り上げて対応してくれなければ、どのような法律ができても、「手遅れ」という事態が発生するやもしれません。
警察の機敏な対応が重要です。
(弁護士 村松いづみ)
2013-06-27掲載
(最新法令・その他)成年被後見人に選挙権回復(改正公選法成立)
これまで公職選挙法11条は、選挙権及び被選挙権を有しない者として、1項1号で「成年被後見人」と定めていました。
しかし、当ホームページでもご紹介したとおり、本年3月、東京地方裁判所は、この規定を違憲無効と判断しました。
そこで、国会で法改正の論議が始まり、5月27日、この規定を削除する改正案が成立しました。
これにより、約13万6000人(昨年末時点)の選挙権が回復し、今夏の参議院選挙から適用されます。
また、今回の改正公選法は、被後見人に認められる代理投票(代筆による投票)の際に必要な補助者について「投票管理者が投票所の事務に従事する者のうちから定める」と規定しました。
東京都選管によると、これまでも知的障害者が投票用紙に候補者名を書けない場合などには区市町村の職員2人が補助。1人が投票する候補者を確認して代筆し、もう1人が不正がないかチェックしており、成年被後見人についても同様と対応をするとのことです。(2013年5月28日付け日本経済新聞)。
(弁護士村松いづみ)
2013-05-29掲載
(最新判例:その他)成年被後見人に選挙権
公職選挙法11条1項1号は、成年後見開始の審判を受けた人について、「選挙権を有しない」と定めています。
原告であるダウン症の女性(50歳)は、成人してから成年後見開始の審判を受けるまでの25年間にわたり選挙権を行使していましたが、この公選法の規定により審判後、選挙権を行使できなくなりました。
成年後見制度は、本人の財産を管理処分する能力の有無・程度について判断する制度であり、選挙に関する能力を判断する制度ではありませんので、これを憲法が定める重要な権利である選挙権に借用するというのは根拠がありません。
また、障害があることを理由に選挙権をはく奪することは、国連の障害のある人の権利条約29条及び自由権規約25条の要請にも反しています。
そして2013年3月14日、東京地裁は、この公選法の規定を憲法に違反するとの判決を下しました。
裁判長は、10分近くかけて判決理由の骨子をわかりやすく説明し最後に原告に対し、「どうそ選挙権を行使して社会参加してください。堂々と胸を張っていい人生を生きてください」と語りかけたそうでう。
裁判官がこのように判決の時に自分の思いを語ることはきわめてマレで、なかなか人間味あふれる裁判官だなあと感じました。
国は控訴せず、速やかに立法的解決をはかることが望まれます。
(弁護士村松いづみ)
2013-03-15掲載
(最新法令:その他)「押し買い」が規制されます
「押し売り」ならぬ「押し買い」被害のトラブルが増えています。
「押し買い」とは、業者が「古い着物を買い取ります」などと言って高齢者などの自宅を訪れ、逆に、客が所有する貴金属や高価な着物を出させて、強引に安価で買い取って行くという商法です。
2012年度国民生活センターに寄せられた被害は4144件で、年々増加しています。
この「押し買い」については、これまで規制する法律がありませんでしたが、昨年、特定商取引法が改正され、規制されることになりました。来月の2月から施行されます。
法律の主な内容は、次のとおりです。
1、不当勧誘の禁止:消費者からの依頼がないと、業者は買い取りを求めることはできません。
2、8日間のクーリングオフの導入:契約しても8日間以内であれば、無条件で契約を解約することができます。
3、契約書面等の交付義務
被害に遭われた方は、最寄りの消費生活センターに相談しましょう。
また消費者ホットラインは、0570-064-370です。
(弁護士村松いづみ)
2013-01-18掲載
(最新判例・その他)国家公務員の政治活動についての2つの最高裁判決
休日に職場外の場所で政党のビラや機関紙を配ったことが、国家公務員の政治活動を禁じた国家公務員法と人事院規則に違反するとして、厚生労働省課長補佐(当時)と旧社会保険庁職員(当時)が逮捕・起訴された事件で、12月7日、最高裁第2小法廷は、前者は有罪、後者は無罪とする判決を下しました。
これは、国家公務員の政治活動を禁止する国家公務員法102条と、政治活動の自由を保障する憲法21条1項(表現の自由)をどのように解釈するかが争われた事件です。
逮捕は2004年~2005年ですが、国連の自由権規約委員会はは、2008年10月に日本政府に対し、公職選挙法(文書配布と戸別訪問禁止)と国家公務員法102条の撤回を求め勧告しています。
欧米などの先進諸国は、勤務時間外や勤務場所以外の政治活動は自由です。
今回の最高裁判決は、国家公務員が行った政治活動が国公法に違反するのは「政治的中立性が損なわれるおそれが実質的に生じる」場合という初めての判断を示しました。
その上で、厚生労働省課長補佐は管理職にあたり、政治的中立性が損なわれるとして有罪とし、元社会保険庁職員は管理職ではなく無罪としました。
なお、この最高裁判決には、須藤正彦裁判官の反対意見が付されています。
須藤裁判官は、厚生労働省課長補佐が管理職的立場ではあっても、休日に、無言で郵便受けに文書を配布したにとどまるものであって、いわば、一私人、一市民として行動しているとみられるから、公務員の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとはいえないとしています。
(弁護士村松いづみ)
2012-12-09掲載
(最新判例・その他)アスベスト(石綿)被害、国に賠償命令
建設現場で建材に含まれるアスベスト(石綿)にさらされ、肺ガンや中皮腫などの深刻な健康被害を受けた首都圏の建設労働者や遺族337人が、国と建材メーカー42社を相手取り損害賠償を求めた裁判の判決が12月5日東京地裁でありました。
判決は、国が1972年頃にはアスベストが重篤な疾患を発症させる危険性を認識しており、1981年までに防じんマスクの着用などの新たな規制措置をとれば、それ以降の被害拡大を防ぐことができたとして、国に対し、総額10億6000万円の賠償を命じました。
建設現場でのアスベスト被害をめぐる集団訴訟は全国6地裁で起こされ、判決は2件目ですが、国の責任を認めた判断は初めてです。
しかし、零細事業主や個人事業主(一人親方)の原告については、労働安全衛生法の「労働者」にあたらず保護の対象ではないとして請求を棄却しました。
また被告建材メーカー42社に対しても法的な賠償責任を認めませんでした。
原告側は東京高裁に控訴しました。
(弁護士村松いづみ)
2012-12-07掲載
(法律コラム・その他)弁護士費用特約を活用しましょう
●交通事故で被害者になった場合、あなたの保険会社は示談代行をしてくれません。
交通事故で加害者となった場合、示談交渉付きの任意保険に加入していれば、その交渉は保険会社がやってくれます。
でも、被害者となった場合には、保険会社は示談の代行はしてくれませんので、その部分の交渉は自分でやるしかありません。
そんな時に、弁護士に法律相談する相談料や弁護士に依頼する費用を出してくれるのが弁護士費用特約です。
しかも、相談や依頼する弁護士は、保険会社紹介の弁護士でなくてもかまいません。
●弁護士費用特約の内容
内容は保険会社によって異なりますので、詳細については、契約約款を読んだり、自分が加入している保険会社に確認しましょう。
一般的には、弁護士費用の上限額は、1回の事故につき被害者1名につき300万円です。
●こんな場合にも利用しましょう
(あなたの加入する保険の契約内容にもよりますが)
① 契約車両以外の車に乗っていて事故にあった場合
② 交通事故以外の事故(例えば、運転中に建設現場の木材が車に倒れてきた)の場合
③ 数万円という少額な損害の場合
(弁護士 村松いづみ)
2012-10-26掲載