少年・刑事- 法律コラム -

(法律コラム:少年・刑事)刑事手続の流れと弁護活動について②

(刑事手続について)

今回は、勾留決定後から起訴に至るまでの刑事手続と勾留決定後の弁護活動についてお話します。

検察官が勾留請求をした日から10日以内に公訴提起をしないときは、検察官は、直ちに被疑者を釈放しなければなりません(刑事訴訟法208条1項)。但し、裁判官がやむを得ない事由があると認めるときは、検察官の請求により、勾留期間を延長することが出来ます(同法208条2項)。勾留延長の期間は、最大で10日間です(なお、さらに勾留期間を延長することを同法208条の2が定めていますが、勾留期間の再延長は極めて特殊な犯罪についてのみ認められます)。

同法208条2項が定める「やむを得ない事由」については最高裁判決(最判昭37年7月3日民集一六・七・一四〇八)があり、「本条(同法208条)2項の『やむを得ない事由があると認めるとき』とは、事件の複雑困難、あるいは証拠収集の遅延ないし困難等により勾留期間を延長してさらに取調べをするのでなければ起訴・不起訴の決定をすることが困難な場合をいう」としています。10日間の身柄拘束でも被疑者が受ける負担は計り知れないものですから、勾留延長のやむを得ない事由は厳格に判断されなければならなりません。しかし、裁判所は安易に延長を認めているのが現状です。

勾留もしくは勾留延長後、検察官は、収集した証拠によって公判を維持し有罪判決が見込めると考えたとき起訴をします(同法247、248条)。起訴には、通常の公判請求、略式起訴請求(同法461条~同法470条参照)、即決裁判請求(同法350条の2~同法350条の14)の3種類があります。

(弁護人の弁護活動について)

勾留決定がなされた時、弁護人が最初に行い得る弁護活動は、勾留決定に対する準抗告(同法429条1項2号)です。これは、勾留決定を出した裁判所の判断を争うもので、勾留決定を行った裁判官とは別の裁判官が3人で合議体を形成し(同法429条3項)、勾留の理由及び勾留の必要性の有無を判断します。勾留の理由のうち、安易に認められてしまうのが、「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」(同法60条1項2号)です。例えば、傷害事件で、被疑者が被害者と顔見知りであれば、裁判所は、「被害者に働きかけるなどして、被害者の証言という犯罪の証拠を滅失させる」として、勾留決定には理由があると判断しがちです。そこで、被疑者に被害者に近づかないという内容の誓約書を書いてもらうなどして、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由が無い旨を主張します。また、勾留の必要性は、捜査機関が勾留によって得られる公益と、被疑者の保護すべき私益とを比較考量します。被疑者の失う私益のわかりやすい例は、会社に出勤できず解雇されるおそれがあることです。勾留決定に対する準抗告では、被疑者にとってどれほど大きな損害となるのかを主張していくことになります。勾留決定に対する準抗告が認められ、裁判所の勾留決定が取消され、検察官の勾留請求が却下されると、被疑者は釈放されます。

仮に、勾留決定に対する準抗告が認められなくとも、弁護人は、次の手段として、勾留延長決定に対する準抗告を行います。勾留延長が認められるためには、上記のとおり「やむを得ない事由」が必要ですから、上記最高裁判決を前提に、やむを得ない事由の不存在を説得的に論じていくことになります。私が担当した風営法違反の女性の事案では、当初の10日間の勾留で自白しており、警察が取調べを終え、検察も十分に取調べを行っており、「やむを得ない事由」など存在しないのに、検察官は勾留延長請求をしてきました。私は、被疑者との接見で勾留延長決定が出されたということを知り、即座に裁判所の夜間窓口に勾留延長決定に対する準抗告の書面を提出したところ、翌日、裁判所は、勾留期間を勾留延長請求時から5日に短縮する決定を出しました。勾留延長請求を却下させることまでは出来なかったのですが、被疑者が少しでも早く釈放されて良かったと思っています。

他にも、弁護人が行い得る弁護活動としては、勾留理由開示請求(同法82条)、勾留取消請求(同法87条)、勾留執行停止申請(同法207条1項本文、同法95条)などがあります。弁護人は、刑事訴訟法上の権利のほか、事実上の申し入れなど、考えられるすべての方法を用いて、被疑者の釈放を目指すのです。

次回は、起訴後の刑事手続の流れと起訴後の弁護活動(公判弁護)についてお話します。

(弁護士 岡村政和)

(法律コラム:少年・刑事)刑事手続の流れと弁護活動について①

(刑事手続について)

前回のコラムでは当番弁護士制度及び接見についてお話しました。

今回は、刑事手続(勾留決定まで)の流れと弁護活動について見ていきます。

被疑者が罪を犯し、警察に逮捕されると、警察は逮捕後48時間以内に検察官に書類と共に身柄を送致しなければならず(刑訴法203条1項)、これを検察官送致といいます。

検察官は、留置の必要性があると思料するときは、送致を受けてから24時間以内に裁判官に対して勾留を請求しなければなりません(刑訴法205条1項)。

裁判官が、勾留の理由及び必要性があると認めたときは、勾留決定がなされ、勾留状を発し(刑訴法207条4項)、被疑者は勾留(10日間)されることになります。さらに、勾留延長されることもあります(刑訴法208条2項)。

(弁護活動について)

では、勾留決定までに弁護士が出来ることは何でしょうか。

まずは、即座に被疑者と接見して被疑者を精神的に励ますことです。特に初めて逮捕された被疑者は、精神的に非常に動揺しており、弁護士によるサポートが不可欠です。接見で、弁護士は被疑者から様々なことを聞き取り、刑事手続や黙秘権等の説明をします。また、弁護士は、家族等と面会したり証拠を集めたりします。さらに被害者と示談交渉することもあります。

次に、検察官と面談をして勾留請求しないように意見書を出します。しかし、検察官は、逮捕段階では、原則勾留請求を行いますので、十分に説得的な意見書及び意見書の根拠となる証拠が必要となります。意見書では、集めた証拠から、勾留の理由及び必要性がないということを書きます。ちなみに、意見書提出の際に、①示談書、②嘆願書、③反省文、④誓約書(被害者に近づかない旨記載した書面)、⑤身元引受書等の文書も提出することがあります。

私が担当した事件で、夫が、些細な言い争いから妻の胸あたりを押し、妻をソファに倒れ込ませたことを理由として、暴行罪(刑法208条)で逮捕されたという事件がありました。私は、被疑者と接見をした後、自宅の連絡先を聞き連絡をしました。すると、妻の方もソファに倒されただけで逮捕されると思っておらず、早く夫に帰ってきてほしいと言いました。そこで、妻とその日の内に面談し、夫に対して損害賠償を請求しない、処罰を求めない旨の嘆願書を作成してもらい、事件が軽微であって、逃亡の恐れがないこと、被害者に働きかけて証言を歪曲する等の罪証隠滅の恐れもないこと、身柄拘束によって勤務先に解雇される可能性があり、勾留の必要性がないこと等を根拠として、勾留請求をしないように意見書を検察官に提出し、面談も行いました。その結果、勾留請求がなされずに夫は釈放されました。

勾留請求がされるのは、逮捕から72時間以内(刑訴法205条2項)ですから、勾留請求をさせないという形で被疑者を釈放させることは時間的に非常に難しいのですが、一番早く被疑者を釈放させる手段であり、それは、弁護士の迅速な弁護活動にかかっているのです。

また、弁護士は、勾留決定を行う裁判官との面会も行います。裁判官面会で行うことは、基本的には検察官面会と同じです。

以上のような弁護活動を行い、それでも、裁判官が勾留決定を行った場合、被疑者の釈放を目指し、裁判官の勾留決定を争うことになります。

次回は、勾留決定後の刑事手続と弁護士の弁護活動についてお話します。

(弁護士 岡村政和)

(法律コラム:少年・刑事)刑事当番弁護士制度・接見について

「当番弁護士制度って、ご存知ですか。」

皆さんは、犯罪とは無縁であると思っていませんか。でも、そんなことはありません。

例えば、あなたが車を運転中、前方不注視で人に車をぶつけ傷つけてしまった場合、自動車運転過失傷害罪(刑法211条2項)が成立します。また、お酒の席で、言い争いから相手に対して手を出してしまった場合、暴行罪(刑法208条)が成立します。他にも、放置自転車を勝手に乗り回して利用する行為は、窃盗(刑法235条)もしくは遺失物横領罪(刑法254条)が成立します。

罪を犯した人は、警察などによって逮捕されることがあります。ですが、多くの一般市民は、自分、家族、知人が逮捕された時に、適切な対処の仕方がわからないと思います。

そこで、逮捕という緊急の事態に対応するため、全国の各弁護士会には、「当番弁護士」という制度があります。

この「当番弁護士制度」とは、「あらかじめ、○月○日は△△先生の当番の日と定めておき、出動要請があれば、すぐに警察署などにいって被疑者に接見することを定めておく制度」です。接見とは、警察署などで被疑者と面会することです。

いつ犯罪が起きるかどうかわかりませんから、弁護士が待機していても出動要請がない日もあります。しかし、当番弁護士制度があることで、被疑者が弁護士と接見したいと言えば(警察から当番弁護士制度の説明があります。)、警察から弁護士会への出動要請の連絡が入り、原則として24時間以内に弁護士が警察署などに駆けつけて接見します。なお、この当番弁護士制度は、被疑者が逮捕されたことを知った家族や、知人でも要請することができます。

では、次に「接見」の中身についてみていきましょう。

 

「接見を通して何をしてもらえるのでしょうか」

一般の方の接見は、1回20分程度、警察官の立会の上で許されるのに対して、弁護士の接見は、時間無制限で、警察官の立会いはありません。これは、刑事訴訟法39条で認められた権利です。

弁護士は、接見に行った際に、まず、なぜ被疑者が逮捕されたのかについて詳しく聞きます。その後、被疑者が、本当に自分が犯した罪によって逮捕されたのか否か(自白事件か否認事件か)を聞きます。

事件のことを聞いた後、弁護士は、被疑者に対して、「今、あなたは、弁護士に何を一番してほしいですか」と聞きます。その時、一番多いのは、家族や恋人、会社への連絡です。弁護士は、被疑者が連絡先を覚えているのであれば、家族などに対して連絡をしますし、覚えていないのであれば、警察と交渉して連絡先を教えてもらえるようにします。次の希望として多いのは、早く釈放されたいというものです。釈放の希望について、弁護士は、まず刑事手続の流れを概説し、続いて、被疑者が今どのような状況におかれていて、いつ頃、どのような状況になったら、釈放されるかなどについてお話します。詳しくは、次回のコラムでお話します。

刑事事件については、スピードが勝負です。フットワーク軽く動ける弁護士に頼むのがよいと思います。先ほど説明した「当番弁護士制度」の他、もちろん、個別に弁護士事務所に連絡をしていただき、その事務所の弁護士に依頼することもできます。

(弁護士 岡村政和)

(最新法令:刑事)自動車運転死傷行為処罰法が施行されます。

 

京都市内の祇園で「てんかん」の病気によって起こった事故や、京都府亀岡市で無免許運転の車が小学生らの列に突っ込んだ事故などをきっかけに、これまでの刑法の規定では処罰が不十分という声があがり、「自動車運転死傷行為処罰法」が制定され、2014年5月20日から施行されます。

 

酒や薬物の影響で「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」での死傷事故も対象に加えられました。

 

また、無免許運転による刑も加重されました。

 

(弁護士村松いづみ)

(最新判例:刑事)ダンスクラブの風営法違反に無罪判決(大阪地裁)

 

本日、大阪地裁は、客にダンスをさせる「クラブ」を無許可で営業したとして、風営法違反の罪に問われたクラブ「NOON(ヌーン)」の元経営者に対し、無罪(求刑:懲役6月、罰金110万円)を言い渡しました。

 

風営法の許可がないクラブに対する摘発が相次ぐ中、許可不要とした判決は初めてです。

 

2012年4月4日、「NOON」で約20人の客が踊る中、それを上回る大阪府警の捜査員がなだれ込み、経営者ら8人を風営法違反(無許可営業)容疑で逮捕しました。

 

風営法では、客にダンスをさせ、飲食物を提供する店は公安委員会の営業許可が必要です。

許可を取っても、営業時間は午前0~1時までに制限され、深夜に営業はできません。

そのため、無許可のままの店が多く存在しました。

 

判決は、風営法が規制する「ダンス営業」とは、「性風俗や青少年の健全育成に実質的に悪影響を及ぼすかどうか」との基準を示しました。

そして「酒を提供し、店内が暗くても、わいせつな行為を促すような享楽的雰囲気はなかった」として風俗営業には当たらないと判示しました。

ただ、風営法の規制そのものが憲法違反であるという主張に対しては、「公共の利益にかない、憲法違反ではない」と判断しました。

 

この事件をきっかけに、2012年5月29日、全国において風営法改正のための署名運動が開始され、坂本龍一さん、大友良英さんをはじめ各界著名人が賛同人に名を連ね、この事件を支えてきました。

 

現在、国会では、この風営法を改正しようという動きがあります。

今回の無罪判決によって、風営法改正の動きが一気に進むことを願っています。

 

(弁護士村松いづみ)

 

(最新法令:刑事)自転車はすべて左側走行を!(改正道路交通法)

 

改正道路交通法の一部が、2013年12月1日から施行されています。

 

この中で、自転車による通行は、左側に統一されました。

 

歩道のない道路のうち、「路側帯」と呼ばれる部分があります。

「路側帯」というのは、道路の端に設けられた歩行者と自転車の通行スペースで、白線によって車道と分けられています。

この「路側帯」を自転車が通行する場合、これまでは、どちらの方向でも通ることができたのですが、今後は左側走行がルールとなりました。

これに違反すると、「3ヶ月以下の懲役か5万円以下の罰金」が課せられます。

 

自転車には道路交通法が適用されます。

自転車に乗る時も、きちんと交通ルールを守り、安全走行に心がけましょう。

 

(弁護士村松いづみ)

(最新法令・刑事)無免許と知りながら車を貸した人も処罰されます(改正道交法)

 

改正道路交通法の一部が2013年12月1日に施行され、無免許運転や同乗者の罰則が強化されました。

これは、京都府亀岡市で、昨年4月、18歳の少年が知人から借りた車で登校中の小学生ら10人を死傷させた事故などがきっかけで導入されました。

 

また、無免許であることを知りながら車を貸した者について、これまでは道交法には規定がなく、刑法の「ほう助」としての罰則(罰則は運転者の半分)しかありませんでした。

今後は、運転者と同罰の「3年以下の懲役か50万円以下の罰金」となります。

また同乗した者についても「2年以下の懲役か30万円以下の罰金」が課せられます。

 

なお、京都府宇治警察は、2013年12月2日、運転免許を持っていない夫に車を貸したとして、道交法違反の疑いで主婦を検挙したと発表しました(2013年12月3日付け京都新聞)。

新設された自動車等提供罪の適用は京都府内では初めてということです。

(弁護士村松いづみ)

(最新法令:刑事)刑の一部猶予法案が成立

 

懲役や禁固刑の一部を執行した後に、残りの刑期を猶予する「一部執行猶予制度」を盛り込んだ刑法改正案などが、6月13日成立しました。

 

新制度は、3年以下の懲役・禁固の判決のうち、裁判所の判断で刑の一部の執行を1~5年の範囲で猶予するというものです。

具体的には、例えば「懲役2年、うち6ヶ月を2年間の執行猶予」という判決が下された場合には、刑務所で1年半過ごして出所し、その後2年間再び罪を犯さなければ刑務所に収容されることはありません。

 

薬物使用や初めて実刑を科された受刑者を対象とし、猶予期間中に社会で更正を図ることで再犯防止を狙うものとされています。

いずれにしても、出所後の社会において医療機関などの「受け皿」や地域のフォローがどの程度充実させることができるかが鍵となると思います。

 

(弁護士  村松いづみ)

(最新判例・刑事)成年後見人は特例適用外=親族間でも刑免除せず

 

親族の間で、窃盗や詐欺・横領など一定の財産犯罪を犯した場合、刑法は、その刑を免除すると定めています(244条ほか)。

これは、刑罰権の行使を控えることで、親族間の自律的解決に委ねる方が望ましいという政策的考慮にもとづく特例です。

 

この刑の免除規定の適用について、最高裁は、10月9日付けで「成年後見人の事務は公的性格があり、刑は免除できない」という判断を下しました。

事案は、成年後見人となった養父が養子の貯金約930万円を使い込み、業務上横領罪で実刑となったものです。

 

なお、最高裁は、平成20年2月18日、未成年後見人になった祖母が横領した事案についても、後見事務は公的性格を有するものであるとして、刑の免除規定を適用しませんでした。

 

(弁護士村松いづみ)

 

(最新判例)最高裁初判断、PTSDも傷害罪

 

東京と青森で4人の女性を監禁し、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を負わせたとして監禁致傷などの罪で起訴されていた事件について、最高裁は、2012年7月25日までに、「PTSDも傷害に当たる」との初判断を示しました(2012年7月26日付け京都新聞朝刊)。

 

PTSDとは、事件や事故、災害といった生命、身体への危険を伴う体験がきっかけとなり、時間が経過しても、パニックや不眠、過剰な警戒感などの症状が出る精神的な障害です。ベトナム戦争から帰還した兵士の行動がアメリカで社会問題化した際に原因として議論され、日本でも1995年の阪神大震災や地下鉄サリン事件などを機に注目されるようになりました。

 

最高裁は、暴行や脅迫などで生じさせた精神的機能の障害も「刑法上の傷害と解釈するのが相当」として、たとえ外形的なキズがなくても刑法上の「傷害」にあたると判断しました。

 

(弁護士 村松いづみ)