(法律コラム:相続) 遺産分割の手続き
【遺産分割協議書】
死亡した人が残した財産を遺産と言います。死亡した人のことを被相続人と言います。相続人が一人の場合は、その相続人が被相続人の遺産をすべて一人で相続しますので、遺産分割協議は必要ありません。不動産であれ、預貯金であれ、その人が唯一の相続人であることを戸籍謄本等で証明するだけで足ります。この証明があれば、不動産の場合は相続を原因とする所有権移転登記が、預貯金の場合は被相続人名義の口座を解約し預貯金の払い戻しを受けることができます。
ところが、相続人が複数いる場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、合意が成立した場合、その内容を遺産分割協議書に明記し、相続人全員の署名と捺印が必要です。相続人の署名・捺印が一人でも欠いていれば、その遺産分割協議書は無効となります。なお、捺印は実印で行い、印鑑登録証明書を添付する必要があります。
【遺産分割調停】
複数の相続人間で意見が合わず遺産分割に関する合意ができない場合、相続人が多数いたり、他の相続人が遠方にいたりして遺産分割協議ができない場合、家庭裁判所に遺産分割の請求をすることができます。
この場合、調停の申立も審判の申立もできますが、遺産分割は親族間の問題なので、話し合いによる解決を優先させ、実務ではほとんどの場合、まず調停の申立を行っています。仮に、審判の申立を行っても、家庭裁判所は特段の事情がない限り調停に付しています。
私も、ほとんどの場合、まず調停の申立を行っていますが、過去に2回、審判の申立をして認められたことがあります。1件は、戦前に死亡した人の不動産が残っており、相続人が50人位いたという案件です。もう1件は、10人位の相続人が全国各地に散らばっており、高齢で京都の家庭裁判所に出頭することができない人もいたという案件です。
遺産分割調停において、相続人全員が合意すれば、その内容が調停調書に記されます。この調停調書があれば、遺産を取得した人は、この調停調書だけで、不動産であれば相続を原因とする所有権移転登記、預貯金であれば被相続人名義の口座の解約をして預貯金の払い戻しを受けることができます。他の相続人の実印や印鑑登録証明書は不要です。
また、戸籍謄本等による相続人の証明も家庭裁判所で行い、家庭裁判所がそれを認めた上で調停調書を作成していますので、法務局や銀行などに相続人を証明するための戸籍謄本等を提示する必要もありません。
【遺産分割審判】
遺産分割調停において、相続人間で意見が合わず、合意ができなかった場合、調停は不成立となり、自動的に審判手続きに移行します。
審判手続きにおいては、裁判官を説得するために、各相続人は自己の主張を詳しく書面にして提出し、その裏付けとなる証拠を提出する必要があります。また、必要に応じて、当事者(相続人本人)尋問、証人尋問、不動産鑑定なども申請することができます。
審判手続きが終了したのち、裁判官は審判(「審判」という名の文書)を出します。この審判には、遺産について具体的な分割内容・方法が記されています。
この審判に基づいて、各相続人は不動産や預貯金を取得することができます。法務局や銀行などに提出する書類は、前述した調停調書の場合と同じです。
審判に不服のある相続人は、高等裁判所に即時抗告をすることができます。この場合の即時抗告は、審判の告知を受けてから、具体的には「審判」という名の文書を受け取ってから、2週間以内に行う必要があります。
(弁護士 村井豊明)