(法律コラム:刑事) ドローンと威力業務妨害罪
最近、小型無人機「ドローン」が普及し、トラブルも増加しています。そして、2人が威力業務妨害罪で逮捕されています。
【首相官邸事件】
報道によりますと、4月22日、首相官邸の屋上でドローンが発見されました。ドローンには小型の容器(直径3㎝、長さ10㎝)が積載され、内部から微量のセシウム134とセシウム137が検出されました。
4月24日夜、福井県小浜市の男性(40歳)が小浜警察署に出頭し、「4月9日にドローンを首相官邸に飛ばした」と自首し、威力業務妨害罪で逮捕されています。飛ばした動機は「反原発を訴えるため」とし、容器に「福島の砂100gを入れた」と供述しているとのことです。
【三社祭事件】
報道によりますと、5月21日、東京・浅草の三社祭(5月15日~17日)でドローンを飛ばすことをほのめかしたとして、15歳の少年が威力業務妨害罪で逮捕されました。少年は、5月14日~15日、動画投稿サイトに「浅草で祭りがあるみたいなんだよ。行きますから。撮影禁止なんて書いてないからね。祭りは無礼講ですよ」と配信していたとのことです。警視庁は、主催者に、ドローン禁止の張り紙をさせる、警備を強化させるなど運営を妨げたとして少年を逮捕しました。少年は、「ドローンを飛ばすとは言っていない」として容疑を否認しているとのことです。
少年は、これまでも5月1日に東本願寺(京都市)で、5月3日に姫路城近くの公園(姫路市)でドローンを飛ばしたとして警察から注意を受けていました。5月9日には、御開帳が開かれた善光寺(長野市)でドローンを飛ばし、行列者のすぐそばに落下させ、警察から注意を受けていました。さらに、5月14日に国会議事堂近くで、5月15日に千代田区の公園で、5月19日にJR有楽町駅近くでドローンを飛ばそうとして、警察から注意を受けていました。
【威力妨害罪とは】
「威力を用いて人の業務を妨害した者」は、3年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処すると定められています(刑法234条)。分解して解説します。
① 「威力を用い」
威力を用いるとは、「人の意思を制圧するに足りる勢力を用いることをいう」とされています。暴行・脅迫はもちろん、地位・権勢を利用する場合も含むとされていますが、実際に相手の意思が制圧されたことを要しないとされています。
また、威力を「用い」とは、一定の行為の必然的結果として、人の意思を制圧するような勢力を用いれば足り、必ずしもそれが直接現に業務に従事している他人に対してなされることを要しないとされています。
② 「人」
自然人・法人のみならず、法人格を有しない団体であっても、組合その他経済上の単位として社会的に独立の活動をしているものを含むとされています。
③ 「業務」
人が社会生活上の地位にもとづいて継続して行う事務のことをいい、職業ないし営業に限定されないとされています。
④ 「妨害」
業務の「妨害」は、業務の執行自体の妨害に限らず、ひろく業務の経営を阻止する一切の行為を含むとされています。また、業務の執行または経営を阻害するおそれのある状態を発生させれば足り、現実に妨害の結果を生じたことを要しないとされています。
【ドローンの飛行ないし飛行をほのめかすことは威力業務妨害罪に該当するか】
威力業務妨害罪は故意犯ですから、遊びでドローンを飛ばしていて、たまたま誤って落下させ、結果として他人の業務を妨害することになったとしても、威力業務妨害罪には該当しません。
首相官邸事件は、「反原発を訴えるため」と称して、容器に放射性物質を含む「福島の砂100g」を入れてドローンを飛ばし、首相官邸の屋上に落下させたのですから、ドローンの飛行・落下という威力を用いて、首相官邸の業務を阻害するおそれがあったと言えますので、威力業務妨害罪が成立すると思われます。これについてはあまり異論がないようです。
これに対し、三社祭事件では、少年は明確に「ドローンを飛ばす」「落とす」とは言っておらず、威力を用いたとまで言えるかどうか、疑問があります。同じように異論を唱える法律専門家もいます。少年が明確に「ドローンを飛ばす」「落とす」と予告した場合、三社祭の運営は「業務」該当し、その運営が阻害されるおそれがあると言えますので、威力業務妨害罪が成立すると思われます。
警察は、ドローンを飛ばした少年に対し再三にわたり注意していたにもかかわらず、これを無視して飛ばそうとしていると判断して逮捕に踏み切ったようですが、罪刑法定主義の観点から見れば、やはり問題があると思われます。
(弁護士 村井豊明)