(法律コラム:刑事)勾留の「罪証の隠滅を疑うに足りる相当の理由」を厳格に判断(最高裁決定)

 

平成26年11月6日、最高裁判所は、迷惑防止条例違反(痴漢事件)についての勾留請求却下の裁判に対する準抗告の決定に対する特別抗告事件で、画期的な決定を下しました。

 

まず、言葉の意味ですが、

勾留、準抗告については、以前の当コラム「刑事手続きの流れと弁護活動について」で説明していますのでご参照ください。

特別抗告とは、刑事訴訟法により不服を申し立てることができない決定又は命令に対して、刑事訴訟法405条に規定する事由(憲法違反等)があることを理由とする場合に限り、最高裁判所に対して行うことが出来る抗告を言います(刑事訴訟法433条1項)。

 

最高裁は、「被疑者は,前科前歴のない会社員であり,原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば,本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は,罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ,原々審が,勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは,この可能性が低いと判断したものと考えられる。・・・被疑者が被害女性に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると,原々審の上記判断が不合理とはいえないところ,原決定の説示をみても,被害少女に対する現実的な働きかけの可能性があるというのみで,その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。」と述べました(下線は岡村)。

 

被害者が存在する事件で裁判所が勾留を認める多くの場合、被害者に対して働きかけを行い、供述を歪曲させることがあるから、罪証隠滅のおそれがあると言います。

そして、従来の裁判所は、ほぼ皆無といえる罪証隠滅の可能性を理由に、「罪証隠滅のおそれ」があるとして、勾留を認めてきました。

しかし、本決定では、勾留に対して、「罪証隠滅の現実的可能性の程度」を求め、原審が、勾留決定を認めるという原々審と違う判断をしたのに、その理由を示していないことを理由として、弁護人の特別抗告に理由があるとしました。

本決定は、今まで、容易に認められてきた勾留決定に対して一石を投じた決定であると言えます。事実、私も、本決定以降の事件で、罪証隠滅の現実的可能性の程度を考慮され、勾留の必要性が無いことを理由として、裁判所によって、検察官の勾留延長決定を取消させた経験があります。

 

そもそも、刑事事件では、判決が下されるまで無罪推定の原則が働きますが、勾留における「罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」は、「罪証隠滅のおそれ」という文言で扱われ、極めて容易に勾留が認められ、無罪推定の原則が貫徹されていませんでした。

 

本決定によって、罪証隠滅の現実的可能性の程度が考慮され、安易な身柄拘束が認められず、無罪推定の原則の確認、人質司法からの脱却の一歩になればと思いますし、今後も、弁護人として、不当な身柄拘束については、最高裁決定を論拠に、勾留請求させない、勾留決定がされたとしても準抗告を行う等、真摯に弁護活動を行っていきたいと思います。

 

(弁護士 岡村政和)