(法律コラム:刑事)刑事訴訟法等改正に関する法案の今国会での成立を断念も、継続審議へ
2015年5月15日付の当コラムで、通信傍受法及び司法取引を含む刑事訴訟法等改正に関する法案(以下「本改正法案」といいます。)が審議されていることをお伝えしました。
政府与党は、本改正法案の今国会での成立を断念し、継続審議としました。
そこで、今回のコラムでは、再度、通信傍受法、司法取引についての問題点を国会の審議状況を踏まえながら説明します。
1,通信傍受法改正案の問題点
本改正法案は、衆議院で2015年8月5日に通過しました。
当初の与党案からは、一部修正がされています。
修正の内容は、通信事業者の代わりに当該刑事事件に関与していない捜査員が立会いを行うというものです。
これは、通信事業者の立会いを不要としたことで事件と無関係な通信傍受が行われる可能性があると国会で批判されたからです。
しかしながら、他の捜査員を立ち会わせたとしても、捜査機関による通信傍受の恣意的運用を抑止することは出来ませんから、一部改正案は、憲法上保障された通信の秘密(憲法21条2項)を侵害するもので許されません。
2、司法取引の問題点
司法取引は、新たに冤罪を生み出す可能性のある制度であると以前に述べました。
与党は、本改正法案は、冤罪を生み出す危険性を手当てするため3つの担保規定を置いているとしています。
しかし、それらの担保規定の実効性は疑わしいものです。
まず、本改正法案は、司法取引の際、協議・合意についての弁護人の関与を認めていますが、あくまでも、司法取引を行う側の弁護人についての関与で、嫌疑をかけられた被疑者の弁護人は司法取引に関与することが出来ません。
また、日本の刑事手続では、起訴後しか捜査機関の証拠を見ることが出来ませんから、弁護人が、証拠を見ることが出来ない中で、被疑者の言い分のみを信じ司法取引を行うことで、弁護人自身が冤罪に関与(協力)してしまうという問題があります。
次に、合意内容(合意書)について、第三者の刑事事件で合意内容の取調べを請求することで、公判廷にその内容が顕出されるから、冤罪の可能性は存在しないといいます。
しかし、法廷に顕出されるのは、合意内容の「結果」のみであり、どのような「過程」で、合意書が作成されたか、「過程の適正さ」についての担保が存在しません。
また、法廷での反対尋問で、合意書の信用性の問題を裁判所が判断できるかも不透明です。
最後に、虚偽供述に対する処罰規定が存在する以上、冤罪が生み出される可能性は存在しないといいます。
しかし、処罰規定がある以上、法廷でも合意書通りの虚偽の供述を維持する可能性があり、処罰規定がかえって冤罪を生む温床となります。
従って、冤罪を生み出す危険性は除去出来ていないのです。
与党は、野党からのこれらの問題点の指摘に対して、司法取引の協議の場面に弁護人を常に関与させるという内容の修正案を国会に提出しました。
しかし、冤罪を生み出す可能性を排除できておらず、本改正法案は極めて問題があります。
3、今後について
本改正法案が成立し、通信傍受法の範囲が広がれば、国民の通信の秘密が侵害される危険性は非常に高まる可能性があります。
また、司法取引の導入によって、自ら何の罪も犯していない国民が冤罪の被害者になる可能性もあります。
以上のように、本改正法案は人権上の問題が山積しています。
しかし、与党は、秋の臨時国会で本改正法案の成立を目指しており、今後も、本改正法案の審議状況に着目し、反対の声をあげていかなければなりません。
(弁護士 岡村政和)