(法律コラム:その他)民法改正法案について(その1)

 

私たち市民の日常生活に密接に関連している法律である民法。
その改正法案(民法の一部を改正する法律案)が2015年3月31日に国会に提出され、現在、国会で議論されています。
今回から複数回に分け、民法改正法案の総論、各論それぞれについて説明します。

 

今回は、総論のうち、「消滅時効」及び「法定利率」の改正法案について説明します。

 

1、消滅時効改正のポイント

 

現行民法167条1項は「債権は、10年間行使しないときは、消滅する」と定めています。
これを「消滅時効」と言います。

 

改正法案166条1項は「債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないとき、または権利を行使することができる時(客観的起算点)から10年間行使しないときは、時効によって消滅する」としています。
消滅時効によって権利行使が出来なくなる期間が10年から5年に半減したことになります。

 

また、現行民法170条から174条には、職業別に様々な短期消滅時効(1年から3年)が定められています。
しかしながら、職業による短期消滅時効に合理的理由が見いだせないという理由で、改正法案では廃止されることとなっています。

 

改正法案では、5年間の期間があれば、損害賠償請求訴訟を提起することも十分可能であると考えられたようです。
契約の不履行の損害賠償請求権についても現行民法の10年から5年間に短縮されるので、注意が必要です。

 

さらに、生命身体という保護法益の重要性に鑑み、生命身体の損害賠償請求権について特例が設けられました(改正法案167・724条)。
まず、現行民法724条は、一律に、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を「被害者が損害及び加害者を知った時(主観的起算点)から『三年間』行使しないとき」としていますが、これを「5年間」と改め、契約不履行の損害賠償請求権の時効を主観的起算点から5年にしたことと均衡を取りました。
同様に、債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効について、現行民法が、客観的起算点から「10年」としている部分を「20年」とし、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効を客観的起算点から「20年」としている現行民法に一致させました。
改正法案によって、債務不履行であっても、不法行為であっても、主観的起算点から5年、客観的起算点から20年として消滅時効の期間が整備されました。

 

但し、医療過誤等による安全配慮義務違反は、医師の過失による医療ミスがあったことを知った時から5年(主観的起算点)となりますので、従来よりも損害賠償請求権行使期間が短くなることに注意が必要です。

 

2、法定利率改正のポイント

 

法定利率とは、法律上定められている利率のことで、現行民法では5%(404条)、現行商法では6%(514条)となっています。
契約等で定めがない場合、遅延損害金の利率となります。

 

しかし、低金利時代が長く続き、5%という利率が時代にそぐわないという議論がありました。
また、交通事故の被害者は、将来に得られたはずの利益を失ったこと(逸失利益)による損害賠償を請求することが出来ます。
その際、将来にわたって得られる利益を現時点ですべて請求できることから中間利息が控除されることになりますが、法定利率の5%もの中間利息が控除されることは、被害者にとって酷であるという議論もありました。
そこで、変動金利の導入が検討されました。
しかし、市場金利の変動に合わせて法定利率を変動させることは債権管理を煩雑にするということで、議論の末、緩やかな変動制が採用されたのです。

 

具体的には、改正法案は、
①現行の5%を3%に下げる
②今後は3年毎に見直し、
③過去5年間60ヶ月の短期貸付利率の平均利率を算出し
④その平均利率がその前の時点の平均利率と1%以上の乖離が生じたときに
⑤乖離幅の1%未満を切捨て、1%単位で変動させる
⑥発生した債権の法定利率はその後変動させない
⑥現行商法514条(商事法定利率6%)の廃止
という「緩やかな自動変動型固定利率制」を採用しました。

 

(弁護士 岡村政和)