(最新判例:労働)定年後の再雇用 同じ業務なら賃下げ違法(東京地裁)

 

横浜市の運送会社を定年後、有期契約で再雇用されたトラック運転手の男性3人が、定年前と同じ業務なのに賃金を下げられたのは違法だとして、定年前と同じ賃金を払うよう会社に求めた訴訟で、2016年5月13日、東京地裁は、「業務の内容や責任が同じなのに賃金を下げるのは、労働契約法に反する」と認定し、定年前の賃金規定を適用して差額分を支払うよう命じました(2016年5月14日付け朝日新聞朝刊)。

 

原告3人は、横浜市の運送会社で、21~34年間、正社員として勤務。

2014年に60歳の定年を迎えた後、1年契約の嘱託社員として再雇用されました。

業務内容は定年前と全く同じ大型タンク車の運転でしたが、嘱託社員の賃金規定が適用され、年収が約2~3割下がったという事案です。

 

判決は「『特段の事情』がない限り、同じ業務内容にもかかわらず賃金格差を設けることは不合理」とし、この会社には特段の事情なしと判断しました。

また、会社側は、原告らは賃下げに同意していたとも主張していましたが、判決は、同意しないと再雇用されない恐れがある状況だったことから、これも特段の事情にはあたらないとしました。

 

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」によって、2006年から、企業に対し、定年年齢の引き上げや継続雇用制度の導入などが義務付けられています。

年金支給開始年齢が引き上げられ、再雇用で働く高齢者は多くいます。

しかし、定年後に再雇用されても、労働者の弱みにつけこみ、賃金などの労働条件を引き下げる企業は少なくありません。

 

他方、労働契約法20条は、正社員のような無期雇用で働く人と、再雇用など有期雇用で働く人との間で、不合理な差別をすることを禁じています。

ただ、どのような場合が「不合理な差別」にあたるのか、法律上、明確ではありません。

 

今回の東京地裁判決は、初めて労働契約法20条を適用した判決と言えるもので、画期的です。

政府が掲げている「同一労働同一賃金」に対し、影響を与えるものとも思われます。

 

(弁護士村松いづみ)