(最新判例:労働・労災)会社の歓送迎会後に事故死、「労災」認める(最高裁)
会社の歓送迎会から残業に戻る途中、交通事故で死亡した男性について、最高裁は、2016年7月8日、「労災に当たる」という判断を示しました(2016年7月9日付け朝日新聞朝刊)。
労働者が「仕事をしているとき」に「仕事によって」ケガをしたり、病気になったり、死亡したりすることを「労働災害」(労災)と言います。
労災と認定されれば、国から給付を受けることができます。
この事件では、男性は、2010年12月、居酒屋で開かれた外国人研修生の歓送迎会に参加。飲酒はせず、会社に残業に戻る前に研修生を車で住居に送り届ける途中、大型トラックと衝突して死亡しました。
労働基準監督署は「死亡は業務と関連しない」として労災と認めず、妻が提訴。
しかし、1審東京地裁は「歓送迎会は私的なもので、会社に戻ろうとしたことも社の指揮命令下になかった」と請求を棄却し、2審の東京高裁も、同様に労災とは認めませんでした。
これに対し、最高裁は、「歓送迎会は、会社の業務と密接に関連しており、事故の際は会社の支配下にあった」と判断し、労災と認定しました。
遺族の気持ちに報いた最高裁判決にはなりましたが、2010年の事故から既に6年が経過しており、あまりにも長すぎると言わざるを得ません。
実は、私も弁護士になってまだまもない頃に、事案は少し異なりますが、同様の事件を担当したことがありました。
Mさん(当時、56歳)は、その日、実質的な責任者として会社主催の懇親会に出席し、その会終了直後に、同僚同士が喧嘩となり、それを止めようとしたMさんは、突き倒されて骨折したという事案でした。
Mさんは、労災申請しましたが、労基署は「私的事故」という理由で認めませんでした。
審査請求も同様の判断でしたので、労働保険審査会に再審査請求を行いました。
私ともう1人の同僚弁護士二人で、Mさんと一緒に東京の労働保険審査会まで行き、意見陳述も行いました。
そして、労働保険審査会は、これを、労災と認定してくれました。
同審査会は、裁決書で「懇親会は、売上げの向上・人間関係の円滑化などの目的をもって会社が主催し、費用も全額会社が負担して実施するもので、特段の所用がないかぎり全員が参加する性格のものであったと認められる」とし、Mさんが喧嘩を止めに入った行為は、「会の責任者として通常期待される行為の範囲内であった」「会そのもは終了していたとしても・・・会を平穏無事に終了させるべき責任者として通常期待される行為の範囲内ものである」と認定しました。
裁判まですることなく労災認定を受けることができましたが、それでも、事故から約4年の歳月が経過していました。
その後、私とMさんとは、Mさんが病気で亡くなられるまで、交流が続きました。
思い出深い事件です。
(弁護士村松いづみ)