(最新判例:その他)職場での旧姓使用を認めず(東京地裁)
東京都内の私立学校に勤務する女性教諭が職場での旧姓(通称)使用を求めた訴訟で、東京地裁は、2016年10月11日、原告の請求を認めない判決を下しました(2016年10月12日付け京都新聞朝刊)。
原告は、2013年に結婚し、戸籍上は夫の姓となりましたが、出生以来使い続けている結婚前の姓の通称使用を学校側に申し入れました。
夫婦別姓選択制が認められていないわが国でのやむを得ない方法でした。
しかし、学校側はこれを認めず、2014年4月からすべての場面で戸籍姓の使用を強制しました。
そこで、2015年3月、旧姓使用を認めないのは人格権の侵害だとして学校を相手に提訴しました。
判決は、「旧姓使用の利益は法律上保護される利益である」としながらも、「戸籍上の姓は旧姓に比べ、より高い個人の識別特定機能を有している」と指摘して、学校側の行為を「違法な人格権の侵害とはいえない」と判断しました。
更に、「旧姓が戸籍姓と同じように使用されることが社会に根付いているとは認められない」とも判示しています。
通称使用をめぐっては、過去に注目すべき判決が2件あります。
1つは、2001年3月29日の大阪地裁判決です。
これは、会社から戸籍上の姓を名乗るよう命じられた女性取締役が人格権の侵害として損害賠償を求め、判決は、「自己に対しいかなる呼称を用いるかは個人の自由に属する事項」とした上で、女性の精神的苦痛に対する慰謝料を認めました。
2つ目は、まだ記憶に新しい2015年12月16日の最高裁判決です。
最高裁は、残念ながら、夫婦同氏制を合憲と判断しましたが、夫婦同氏制の下では「婚姻前の氏(=姓)を使用する中で形成しきた個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を結婚後も維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける場合があることは否定できない」と認めたものの、「夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっているところ、上記の不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度緩和される」として、これを「合憲」の根拠の1つとしました。
今回の東京地裁判決は、この最高裁判決の通称使用のとらえ方にも反するもので、とうてい納得できるものではありません。
引き続き、控訴審でも頑張ってほしいと思います。
(弁護士村松いづみ)