(法律コラム:医療過誤)医療事故調査制度がスタート(その1)
【新制度の趣旨】
これまで医療事故が発生した場合、
①患者側の刑事告訴によって警察が捜査し医師などの関係者を逮捕したり、医療機関を捜索したりして、刑事責任を追及する方法
②患者側が医療機関や医師などの関係者を被告として民事訴訟を提起して損害賠償責任を追及する方法
がありました。
この2つの方法は、いずれも医療機関や関係者の責任を追及することを目的としており、医療事故の再発を防止するという目的ではありませんでした。
2014年6月に医療法の一部が改正され、2015年10月から医療事故調査制度が施行されることになりました。
この新制度は、医療の安全を確保するために、医療機関が自主的に医療事故の原因を調査した上で、医療事故の再発防止を図ることを目的としています。
【調査の対象となる医療事故】
この新制度による調査の対象となる医療事故は、死亡又は死産に限られます。
そして、次の2つの要件に該当する医療事故が調査の対象となります(医療法6条の10)。
⑴ 提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産
⑵ 病院等の管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの
【「医療」の範囲】
まず、提供した「医療」に含まれるものとして、厚労省が次のような例を示しています。
① 診察
徴候、症状に関連するもの
② 検査等(経過観察を含む)
検体検査、生体検査、診断穿刺・検体採取、画像検査に関連するもの
③ 治療(経過観察を含む)
投薬・注射(輸血を含む)、リハビリテーション、処置、手術(分娩を含む)、麻酔、放射線治療、医療機器の使用に関連するもの
④ その他
以下のような事案については、管理者が医療に起因し、又は起因すると疑われるものと判断した場合
療養、転倒・転落、誤嚥、患者の隔離・身体的拘束・身体抑制に関連するもの
また、厚労省は「医療」含まれないものとして、次のよう例を示しています。
① 施設管理に関連するもの
火災等、地震や落雷等の天災、その他
② 併発症(提供した医療に関連のない、偶発的に生じた疾患)
③ 原病の進行
④ 自殺(本人の意図によるもの)
⑤ その他(院内で発生した殺人・傷害致死等)
【「予期しなかったもの」の範囲】
「病院等の管理者が当該死亡又は死産を予期しなかったもの」の範囲について、厚労省は、次の3つの事項に該当しないと管理者が認めたものを指すとしています。
① 管理者が、当該医療の提供前に、医療従事者等による、当該患者等に対して、当該死亡又は死産が予期されていることを説明していたと認めたもの
② 管理者が、当該医療提供前に、医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていることを診療録その他の文書等に記録していたと認めたもの
③ 管理者が、当該医療の提供に係る医療従事者等からの事情の聴取及び、医療の安全管理のための委員会(開催している場合に限る)から意見の聴取を行った上で、当該医療の提供前に、当該医療の提供に係る医療従事者等により、当該死亡又は死産が予期されていると認めたもの
上記の①と②は、死亡又は死産を予期していたことを、事前説明や診療録等への記載によって客観的に証明されている場合を指しています。
ところが、上記③は、死亡又は死産を予期していたことを、事前に説明していたことを客観的に証明できない場合を想定しています。医療従事者が事前に患者等に対し死亡又は死産の可能性を説明するのが原則であり、③は極めて例外的な場合であると肝に銘じなければなりません。
③の事情聴取は十分に行う必要があります。
なお、死亡の可能性についての事前説明は、患者の具体的な診療経過等を踏まえた上での個別具体的なものでなければなりません。「高齢なので死亡の可能性がある」とか、「一定の確率で死亡する可能性がある」といった一般的・抽象的な説明を指すのではありません。
《つづく》
(弁護士 村井豊明)