(最新判例:その他)学校の部活事故で約2億3700万円の損害賠償判決(神戸地裁)
新聞報道によりますと、大阪高裁は、1月22日、請求を棄却した神戸地裁判決を変更し、兵庫県に約2億3700万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
事故は2007年5月24日に発生し、兵庫県立龍野高校の女子テニス部のキャプテン(当時2年生)が練習中に熱中症で倒れ心停止となり低酸素脳症による重度の障害が残ったという事案です。この日は、初夏にしては気温が高く湿度も高かったようで、高裁判決は「コートは30度前後で、地表はさらに10度前後高かった」と認定しています。女性は、正午ころから他の部員とともに練習を始め、ラリーの最中、ふらついて座りこみましたが、他の部員から休憩をすすめられても1~2分休むだけで、顧問が指示した練習メニューを次々とこなしていったようです。そして、練習開始から約3時間後、最後のメニューのランニングで再び倒れ、救急搬送されました。女性は、今も手足を動かすことができず、話すこともできず、寝たきりの状態で生活をしているとのことです。
顧問は、練習の最初約30分だけ立会い、練習内容をキャプテンに指示して出張に出かけたのです。
大阪高裁判決は、①普段は夕方に部活動をしていたのに、日差しの強い日中に練習をしたこと、②中間テストの最終日に当たり、練習は10日ぶりで、部員は睡眠不足の可能性があったこと、③女性にとって顧問が不在時に練習を仕切るのは初めてだったこと、④顧問が指示した練習メニューは密度が濃く、これまでの練習ぶりから女性が率先して練習メニューをこなすことが予想できたことを指摘し、「練習の様子を直接監督できない以上、部員の健康状態に配慮すべきだった」と述べ、練習を軽くしたり、水分補給の時間を設けたりするなどして熱中症になるのをあらかじめ防ぐべきだったのに、そのような熱中症防止策をとっていなかったことは顧問に安全配慮義務違反があるとして、兵庫県に損害賠償を命じたのです。
部活事故で監督や顧問の安全配慮義務違反を認めるか否かは、個々の事案により判断が分かれています。このケースでも、神戸地裁は安全配慮義務違反を認めず、大阪高裁はこれを認めており、判断が大きく分かれています。
賠償額は、慰謝料、逸失利益などとともに、将来の介護費用として約1億円を認めたため、約2億3700万円と高額となったのです。
女性は寝たきりですので、常時介護を必要としており、親族が介護を行う場合には、裁判例では1日当たり8,000円~9,000円が認められています。さらに、職業介護を要する場合には、1日当たり18,000円~20,000円が認められています。大阪高裁の判決文は入手できていませんが、女性の場合、両親が介護をしているようですので、両親の平均就労可能年(67歳)までは1日当たり8,000円~9,000円、その後は女性の平均余命(85歳)までの職業介護として1日当たり18,000円~20,000円が認められ、将来の介護費用は合計で約1億円となったものと思われます。重度の障害が残って常時介護が必要となった場合、死亡事案よりも賠償額が高額になるのは、この将来の介護費用が認められることによります。
(弁護士 村井豊明)