(法律コラム:刑事)通信傍受法の改正及び司法取引制度の導入について

 

今国会で、犯罪捜査の通信傍受に関する法律(通信傍受法)の改正及び司法取引制度の導入について議論がされています。

しかし、通信傍受法の改正・司法取引制度の導入には、以下のような問題点があります。

 

通信傍受法は、1999(平成11)年に成立した法律で、捜査機関が、特定の犯罪について必要があると思料した時、裁判所の発する傍受令状によって、私人の通信内容(電話、電子メール、FAX等)を傍受することが出来ることを認めた法律です。

通信傍受法の制定当時、憲法で定められた通信の秘密(21条2項)、プラシバシー権(13条参照)に反するとして反対運動が展開されました。

反対の声に配慮して、通信傍受法は、①通信傍受の対象となる犯罪が、薬物犯罪、銃器犯罪、組織的殺人、集団密航の4つの重大犯罪に限定すること、②通信傍受のためには、通信業者の立会いを必要とし、捜査の公平性、透明性が確保されていること等を理由として成立したという経緯があります。

 

しかし、今回の改正案では、

まず、対象犯罪に窃盗、詐欺、傷害等の件数の多い犯罪が含まれているため、私人が通信傍受をされる可能性が著しく増大します。

また、通信事業者の立会いが不要になるので、捜査の公平性、透明性については担保が無くなります。

さらに、犯罪に関する通話かどうかに関係なく、一旦全てを保存して、捜査機関が聴き直すことが出来るようになり、捜査機関は取りあえず通信傍受を行うということが考えられ、通信の秘密、プライバシー権の侵害が現在よりも容易に行われる可能性が飛躍的に高まります。

 

通信傍受法の改正によって、捜査機関による通信傍受が頻繁に行われ、私人の多くの通信や会話が通信傍受の対象となり、捜査機関の監視下に置かれてしまい、監視社会になる恐れがあるのです。

 

次に、司法取引について解説します。

 

司法取引とは、犯罪を行った被疑者・被告人が自分の知っている「他人の犯罪」を捜査機関に密告することで、「密告した被疑者・被告人本人の処分を軽減する」ことを認める制度です。

司法取引制度は、既にアメリカで導入されていますが、冤罪を生み出す制度として、非常に問題視されています。

アメリカでは、最近になって精密なDNA鑑定制度を用いて再調査した結果、数々の冤罪事件が発覚しました(DNA鑑定による冤罪証明の手法を「イノセンス・プロジェクト」といいます。)。

後に無実が証明された死刑冤罪事件の実に45.9%が、情報提供者証言が虚偽であったということも判明しています。

このような経緯からアメリカでは、司法取引制度について再度検討する機会がもたれています。

仮に、司法取引制度が法律上認められたとすれば、自身の罪を軽減したいために他人に罪を押し付けるというような事態が現在よりも増加することは明らかであり、新たな冤罪を生み出す温床となります。

冤罪を生み出す可能性があるという指摘に対して、虚偽の申告には刑罰が科されるので、心配ないとの声があります。しかし、仮に虚偽の申告をした被疑者・被告人が他人の刑事事件で真実は自分の刑を軽くするために虚偽の申告をしたと正直に話せば、刑罰に問われることになるのですから、虚偽の申告をした被疑者・被告人は、裁判でも虚偽の申告を維持することになり、冤罪を抑制する効果は期待できません。

 

このように司法取引は、冤罪の被害者を増やす危険性の高い制度です。

 

皆さんも、今国会で審議されている通信傍受法の改正、司法取引の導入について反対の声をあげていただければと思います。

 

(弁護士 岡村政和)